ショコラ: 「ありがとうございましたー♪ またのご来店をお待ちしておりまーす!」 ショコラ: 「いらっしゃいませ! メニューはこちらになりまして、オススメはこちらの看板でーす♪」 バニラ: 「お待たせしました。季節のミルフィーユとチョコモンブランになります」 ショコラ: 「あ、店内でのご飲食でしたらばこちらへどうぞー♪ メニューはこちらになりまーす!」 バニラ: 「お会計はこちらで。ドライアイスはお使いですか?」 嘉祥: 「……よし、今のうちにショート用のスポンジも焼いとくかな」 窓越しに店内の様子を見ると多少なりとも客足が落ち着いてきたようだ。 時計を見るともうすぐ15時になるかなといったところだった。 ……まさか、あの開店日早々売り切れ事件のお陰で評判が上がるとはなぁ。 ブログやらドゥイッターやらの口コミ効果があったらしく次の日から大忙し。 まさかの偶然とは言え、本当に時雨様様だ。 ショコラ: 「ご主人さま! フルーツショートケーキがもう少ないです! あ、あとシュークリームも!」 嘉祥: 「了解、今から追加分作っとくな」 バニラ: 「ご主人、誕生日ケーキのオーダーもらった。注文書ここに入れとく」 嘉祥: 「分かった、後で確認しとくよ」 嘉祥: 「ショコラもバニラもまさかここまで動けるとはなぁ……」 お客さんの前でキビキビハキハキと働く二匹の後ろ姿を見守る。 ショコラは持ち前の元気さだったり、バニラは小さな気遣いだったり。 ソレイユの看板ネコとして評判も上々で相当に店に貢献してくれている。 本当に『ネコの手』くらいしか期待してなかった部分もあったけど助かった。 嘉祥: 「……と、そろそろ休憩時間か」 嘉祥: 「こっちもちょうど出来上がってる頃だな」 軽く首を回しながら、追加分の材料を取りに冷蔵庫に手を掛ける。 嘉祥: 「はい、お疲れさん」 ショコラ&バニラ: 『「おぉぉーーーーっ!! こ、これはっ……!!」\n「おぉぉぉーー……! こ、これは……!!」』 ショコラ: 「ご、ご主人さま……! これは、これはチーズケーキになりますかっ!?」 バニラ: 「しかもレア、レアだよショコラ……! 表面がツヤツヤ……!」 嘉祥: 「お前らが頑張ってくれてるからな。そのご褒美にリクエストを」 ショコラ: 「ご主人さまぁ……! ショコラたちのためだけのレアチーズなんですね!」 バニラ: 「ご主人、優しい……! これが労働の喜び……!」 目を輝かせてテーブルの上のレアチーズケーキに歓喜する二匹。 これだけ喜んでもらえたらこっちも作った甲斐があると言うものだ。 俺も椅子に腰を下ろして紅茶ポットにお湯を注ぐ。 ショコラ: 「バニラ! この感動を時雨ちゃんにも分けてあげたいと思うんだよ!」 バニラ: 「でも私たちはケータイとか持ってない、無念……」 ショコラ: 「そっか、じゃあ写メ出来ないね……」 バニラ: 「デジカメもないネコには無力……」 ショコラ: 「そうだ! カメラがないならスケッチだよ! この感動を絵に残すの!」 バニラ: 「というわけでご主人、私とショコラを描いて欲しい。手早めにお願い。キリッ」 嘉祥: 「いいから早く食べろって。店の休憩終わるぞ」 三人分の紅茶を淹れながら冷静に促す。 相変わらず見てて飽きないネコたちだけども、本人らは漫才じゃないんだよなコレで。 ショコラ: 「ではではいっただっきまーす! はむ、んぐんぐんぐんぐ……」 ショコラ: 「おおぉおぉぉおいしーーーーっ!! やわっこくてトロっとしてておいしーーー!!」 ショコラ: 「ご主人さまの、ご主人さまの愛を感じます……!」 ショコラ: 「ショコラは世界一幸せなネコでありますよおぉぉおぉぉ……っっっ!!」 バニラ: 「ふあぁ……♪ この絶妙な甘さ加減、少しだけレモンの効いた爽やかさ、おいしい……♪」 バニラ: 「この底のクッキーも、んふっ♪ 少しビターな味付けが、んふふ~っ♪」 嘉祥: 「お気に召したなら何より」 嘉祥: 「あと別でソースも用意してみたんだ」 嘉祥: 「好きなので食べてみて感想聞かせてくれると助かる」 ショコラ: 「ふわぁぁ……! ショコラの大好きなチョコレートソースがあるじゃにゃいですかー!」 バニラ: 「こっちは私の好きなベリーソース、抹茶のパウダーまで……!?」 ショコラ: 「こんな至れりつくせりでいいのですか!?」 ショコラ: 「こんな幸せが許されると言うのですにゃー!?」 バニラ: 「あぁぁ、おいしい……! どれもちゃんとレアチーズと引き立て合って、美味しさが倍ドンに……!」 ショコラ: 「おいしー! ほんとおいしいですよご主人さまー♪ プロみたいですー!」 バニラ: 「ほんとにプロの味。ご主人超カッコイイ」 嘉祥: 「まぁ駆け出しだけど一応これでもな」 まぁかなり褒めてくれてるつもりなんだろうし良しとしよう。 二匹からリクエストを聞いてから、実は陰でレアチーズの研究をしてたのは秘密で。 ショコラ: 「ご主人さまのご褒美嬉しいにゃあ♪」 ショコラ: 「褒めてもらった上に美味しくて幸せだにゃー♪」 バニラ: 「私たちすごく働いてるからねー」 バニラ: 「ご主人一人じゃつらかったでしょ? えへん」 嘉祥: 「そうだな、お前たちがいてくれてすごく助かってるよ。よしよし」 素直に喜ぶショコラと自慢気に鼻を鳴らすバニラを交互に撫でる。 ショコラ: 「ショコラ、ご主人さまのためにもっと頑張ります!」 ショコラ: 「もっともーっと頑張りますから! ね、バニラ?」 バニラ: 「自分の食い扶持分くらいは働く。居候と言われない程度に」 ショコラ: 「もー、素直じゃないんだからー。バニラもケーキ屋さん気に入ってるんでしょ?」 バニラ: 「ショコラと一緒に働くの、楽しいからね。それだけだから。ほんとそれだけ」 ショコラ: 「あははー。バニラの頬赤いぞー?」 ショコラ: 「そんな子はほっぺふにふにしちゃろーふにふにー♪」 バニラ: 「別に赤くな、んっ、んっ……!」 バニラ: 「こら、食べてる最中はダメだって、ご主人も言って、ん、んんっ……!」 うちの看板ネコたちは可愛いらしいやつらだなぁ。 お茶のおかわりを淹れながら二匹のやりとりに目を細める。 看板ネコとして人気なのもよく分かると言うか。 微笑ましい姉妹みたいでほのぼのしてて可愛らしい。 嘉祥: 「これだけしっかり手伝ってもらってるし、本格的に勉強しなくちゃな?」 ショコラ: 「勉強? 何のですか? ケーキ?」 バニラ: 「あ、経営? ご主人はもう会長職に引退を決意?」 嘉祥: 「違うって。開業して数日で引退するか」 嘉祥: 「資格の勉強。お前らもこないだ時雨に聞いただろ?」 俺の言葉を聞いて、きょとんとした顔で目をぱちぱちと瞬かせる。 ショコラ&バニラ: 『「資格って、鈴?」』 嘉祥: 「あぁ。こんなに立派な看板ネコとして働いてくれてるしな」 ショコラ: 「ご主人さま、それって……!」 ショコラとバニラが目を丸くして顔を見合わせる。 そして立ち上がるとテーブル越しに身を乗り出してくる。 ショコラ: 「それって、ショコラたちがちゃんと役に立ってるってことですか?」 バニラ: 「しっかりお仕事、出来てるってこと?」 嘉祥: 「もちろん。そう言ってるだろ?」 嘉祥: 「お前たちがいなかったら、店が回せてなかっただろうからな」 さっきと同じように頭をぽんぽんと叩いてお礼を告げる。 ショコラ: 「ショコラが鈴持ちになったら、ご主人さまは喜んでくれますか?」 嘉祥: 「ああ、もちろん」 バニラ: 「看板ネコが二匹とも鈴持ちだったら、ご主人の鼻も高いからね」 嘉祥: 「ああ、自慢の看板ネコたちだな。でも……」 嘉祥: 「飼い主として、ちゃんとしたネコだって言う証を取らせてやりたいしな」 嘉祥: 「だから、自分たちのためにも頑張れ。俺もちゃんと一緒に頑張るから」 くしゃくしゃとそれぞれの頭を撫でる。 さっき以上に目を細めて、顔いっぱいに笑顔を咲かせてくれる。 ショコラ: 「はーい! ショコラは頑張ります、めっちゃ頑張りますよー!」 ショコラ: 「ご主人さまがショコラなしじゃいられないくらいに頑張りますからー!」 バニラ: 「鈴ちゃんと取ったら遊びにも連れてってくれる?」 バニラ: 「私、行ってみたいところいっぱいあるからね?」 嘉祥: 「ああいいぞ。遊園地でも水族館でもどこでも連れてってやる」 ショコラ: 「うわーいっ♪ ご主人さまと遊園地うれしー!」 ショコラ: 「ショコラは本場のネズミっ子王国行きたいです!」 バニラ: 「私はオーロラが見たい。月のクレーターでもいい。むしろ両方」 嘉祥: 「いやまぁ常識の範囲でな? 二匹とも聞いてるか?」 目をキラッキラと輝かせながらとんでもない妄想に耽るネコたち。 まさか海を飛び越えるどころか地球を離れるところまでとは……。 ネコの夢も侮れないものだなぁ。恐るべし。 ショコラ: 「むしろどこでもと言ってくれるなら、ご主人さまのお布団の中でいいんですよ! むはー!」 バニラ: 「ネコ史上初の宇宙到達……!」 バニラ: 「いやいっそのこと、ここはもう火星辺りまでいっちゃうとか……!」 嘉祥: 「おーい。ショコラもバニラも休憩終わるからそろそろ帰ってこーい」 それから、ずいぶん遠くまで旅立っていたショコラとバニラを呼び戻すのに苦労したのだった。 ――数日後の定休日。 時雨: 「『鈴持ち』の明日への第一歩!」 時雨: 「準備はいいですか? ショコラ、バニラ!」 ショコラ: 「おっす! 準備おっけーであります、時雨ちゃん先生!」 バニラ: 「おっすおっす、わたくしもおっけーでありまする」 時雨: 「いいですか? 鈴持ちに必要とされる条件は『人間の生活の中にネコ一匹で溶け込めるか』」 時雨: 「すべてのテストはこの一言に集約されるのです! はい、復唱!」 ショコラ&バニラ: 『「すべてのテストはこの一言に集約されるのです!」』 時雨: 「違います! その前ですその前! 試験なら今のバツですよバツ!!」 嘉祥: 「確かに今のはそういう解釈も出来るよなぁ。ズズッ」 リビングでお茶をすすりながらネコたちと時雨の様子を見守る。 てか時雨のママモードってあんなテンションだったのか……。 嘉祥: 「あいつが生まれてからずっと一緒にいるけど初めて見たぞ、あんなハチマキとか」 アズキ: 「嘉祥が『資格の勉強の仕方を教えてくれ』なんて頼み事なんかすっからだよ」 アズキ: 「ここ数日、時雨のテンションがガチ上がりで、マジ困ったもんだったぞーはぁ~」 ココナツ: 「嘉祥さまに頼られたことが本当に嬉しかったみたいでね」 ココナツ: 「お店のお休みまで待ち切れない様子で、代わりに私たちが勉強教えられたりしたよ」 連れてこられたアズキとココナツがうんうんと頷きながらお茶を飲む。 知らない内にこいつらにもとばっちりで迷惑かけてたんだなぁ。 後でおみやげにケーキでも持たせてやろう。うん、それがいい。 時雨: 「いいですか? そもそも『単独行動許可証』と言うのはですね?」 時雨: 「人間界の常識やルールを理解して、ネコの習性や本能に負けず、理性で自分を律した行動が出来るか」 時雨: 「これを乗り越えたネコこそが本物のネコ足り得るのです」 ショコラ: 「そ、そんなっ……!? ショコラはまだ本物のネコじゃなかったんだ!? どうしよう!?」 バニラ: 「まぁネコはネコだから。そんなうろたえなくても大丈夫。落ち着いて」 時雨: 「バニラ、そんな悠長なことを言っていてはいけませんよ?」 時雨: 「早く立派な一人前のネコになるという気持ちこそが、自立したネコとしての大事なことなのです」 時雨: 「ショコラもバニラも、早く兄さまのパートナーになりたいでしょう?」 ショコラ: 「おす! ご主人さまのパートナーになりたいです! おす!」 バニラ: 「まぁとりあえずショコラのパートナーであれば。後はクビにならない程度に」 アズキ: 「バニラには覇気が足りねーよなぁボケっとしてマイペースっつーかバリバリバリバリ」 ココナツ: 「ちゃんとやることはやるから、やる気が表面に出ないだけだよばりばりばりばり」 嘉祥: 「お前らも十分マイペースだけどな」 お菓子のお代わりを用意しつつツッコミ。 ネコらしいと言えばネコらしいんだろうけども。 時雨: 「人の世では『論より証拠』と言います。私が口で説明するよりも実際に体験した方が早いでしょう」 時雨: 「まずはアズキのお手本を見せてあげましょう」 時雨: 「アズキ、長姉のネコとして末妹たちに鈴持ちのネコたる姿を見せてあげなさいな」 アズキ: 「んあ? 何だよ、めんどくせーなー。ギャラ出んだろーな、ギャラ」 ショコラ: 「アズキちゃん、よろしくお願いします!」 バニラ: 「よろしくね、アズキ」 時雨: 「では、鈴持ちのネコの強靭な意志。兄さまもとくとご覧あれ」 時雨が得意気にごそごそと着物の裾から何かを取り出す。 時雨: 「はい、ここにネコまっしぐらな脂の乗り切ったテラテラの大トロがあります」 嘉祥: 「え? 今どこから皿と大トロ出てきた?」 時雨: 「ふふ、こんなこともあろうかと用意しておいたのです。一言で言えば兄さまへの愛にございます」 嘉祥: 「いや俺が言ってるのは理由じゃなくて、場所の問題なんだけど」 時雨: 「そのようないと小さきことは置いて置きまして」 まさに一蹴。 でもツッコミどころが多すぎてもういいかなって気がしてくる。うん。 時雨: 「普通のネコならば、目の前に大好物を出されたら本能的に飛びついてしまいます」 時雨: 「ですが、これをアズキの目の前にぶら下げても――」 アズキ: 「うにゃぁっ!!」 時雨: 「はぅあっ!?」 アズキ: 「もぐもぐもぐもぐ」 時雨: 「…………」 アズキ: 「もぐもぐもぐもぐもぐもぐも」 時雨: 「…………」 時雨: 「……その、アズ――」 アズキ: 「うにゃにゃにゃにゃにゃっっっ!!」 時雨: 「あ、ちょっ……! アズキっ……!!」 時雨: 「…………」 ショコラ&バニラ: 『「…………」』 嘉祥: 「…………」 時雨: 「……コホン。今のは悪い例です。アズキにはあとでオシオキをするとして」 嘉祥: 「あ、やっぱりオシオキはあるんだ」 時雨: 「ココナツ! 耐久ねこじゃらし!」 時雨: 「ココナツ、準備はいい?」 ココナツ: 「お任せ下さい、時雨さま」 時雨: 「いきます。兄さま、よーくご覧下さいね? アズキとは違うところをお見せしましょう」 嘉祥: 「俺よりもショコラバニラにだな」 時雨: 「頼みますよ、ココナツ!」 全然聞いちゃいない。 まぁショコラもバニラも見てるからいいんだけども。 時雨: 「はいっ」 時雨: 「せいっ」 ココナツ: 「…………」 ショコラ: 「おおぉっ……! さすがココちゃん、すごい! すごいノーリアクションなんだよ!」 バニラ: 「まったく気にする素振りすらない。まさに大物の風格」 ココナツ: 「くす。この程度、褒めてもらうほどのことでもないよ?」 ココナツ: 「この程度のこと、時雨さまのネコとして当然だし、こんなの何時間でも続けられ……」 ココナツ: 「…………ん?」 羽虫: 「ぷ~~~~~~~ん」 ココナツ: 「…………」 ショコラ: 「? どしたのココちゃん?」 羽虫: 「ぷ~~~~~~~ん」 ココナツ: 「…………」 ショコラ: 「???」 羽虫: 「ぷ~~~~~~~ん」 ココナツ: 「……………………」 ショコラ: 「??????」 ショコラ&ココナツ: 『「あいたぁっ!?」\n「うにゃあっ!!」』 ショコラ: 「ふぇーん! ココちゃんにネコパンチされたー! にゃぁーん、ひどいー!!」 ココナツ: 「ご、ごめん、ショコラ! つい……!」 バニラ: 「今のは強烈だったね。ネコだからしょうがないとはいえ。よしよし」 嘉祥: 「……大丈夫なのか? 家のネコたちはアレで」 時雨: 「一応アズキもココナツも試験にはほぼ満点で合格してるはずなのですが……あるぇ~?」 全然、独立して行動出来なさそうな二匹だった。 時雨: 「兄さま。今度こそは何の問題もございません」 時雨: 「大船に乗った気持ちでお任せ下さい」 メイプル: 「はーい。面倒だけど来て上げたわよー」 シナモン: 「こんにちわ~嘉祥さん。微力ながらお力添えに参りました~」 嘉祥: 「メイプルにシナモンも悪いな。わざわざ来てもらって」 メイプル: 「ほんとよね、あたしが来て上げたんだから感謝してよ?」 シナモン: 「可愛い妹たちのためですから。気にしないで下さい~♪」 時雨: 「メイプルとシナモンにはペーパーテストの方を見てもらおうと思います」 嘉祥: 「ペーパーテストの方って、実技は昼間のアレで終わりなのか?」 ショコラ: 「おす、勉強も頑張ります! 先生たちよろしくお願いします!」 バニラ: 「おっすおっす。よろしくお願いします」 ……ツッコむだけ無駄だよな。うん、分かってた。 まぁさっきの件もあったし、今度こそは大丈夫……かもしれないし。 時雨: 「ではあとは若いネコたちに任せて」 時雨: 「私たちは兄妹水入らずのお茶としましょうか」 嘉祥: 「え、ペーパーテストの勉強ってそんな感じなのか?」 時雨: 「先生が何人いても仕方ないですからね。船頭多くして船山に登る、です」 時雨: 「あ、そうそう私が作りました一口おはぎをお持ちしたのです。ぜひ兄さまに食べて欲しくて」 時雨: 「あと良い茶葉も手に入りましたのでお供に」 時雨: 「台所をお借り致しますね。いそいそ」 嘉祥: 「……まぁ、アレでも4匹のネコを試験に合格させたわけだしな」 とりあえず俺も何も言わずに見守ることにした。 メイプル: 「基本は『ろしあもじ』で出る口ね。これ覚えとくと結構使えるから」 ショコラ: 「すっごー! メイプルちゃんすっごいよー! 打てない顔文字はないよ!」 ショコラ: 「マスター! 顔文字マスターだよ! かっこいー!」 メイプル: 「ふふ、ショコラは本当にいいリアクションするわねぇ」 メイプル: 「でもこの程度で驚いててどうするの? 次はライソスタンプね」 ショコラ: 「わー! カワイイ、これ超かわいー! これなに!? これなんなの!?」 シナモン: 「バニラちゃん、心の準備はいい~?」 シナモン: 「その、お花はね~? その、おしべとめしべって言うのがあってね~?」 シナモン: 「あ、あのね? お、おしべとめしべがね?」 シナモン: 「その、愛し合って、ぐちょぐちょに……ぐちょぐちょになると、赤ちゃんがねっ……? はぁぁっ……♪」 バニラ: 「シナモン、発情してないでちゃんと教えて」 シナモン: 「はっ、発情にゃんてぇ……! わ、わたし、これでも鈴持ちのお姉ちゃんにゃんだからぁ……!」 シナモン: 「こんな、理科の教科書くにゃいでぇ……ほ、保健体育の教科書でもあるまいしぃ……!」 バニラ: 「お姉ちゃん、不甲斐ない」 シナモン: 「にゃあぁぁっ……! だめ、そんな目でわたしを見ちゃだめぇっ……! にゃぁぁぁんっ……♪」 嘉祥: 「……で、今度は何やってんだ?」 時雨: 「一般常識と小学生くらいの学力は必要とされますから」 時雨: 「最近はネコを使った犯罪もあったりしますしね。人間界の一般教養が必要なのです」 嘉祥: 「俺には携帯アプリいじくってるのと、アレな本読んでるようにしか見えないけどな……」 時雨: 「あ、兄さま。こちらのきな粉のやつも美味しいですよ。はい、あーん」 時雨が差し出してくる一口おはぎをもらいつつ勉強会の様子を眺める。 絶対に勉強してない。これは絶対に勉強ではないと思う。 少なくとも俺の知っている勉強とは根本的に違うものだ。 本当に任せておいて正解なのか心配になってくる。 時雨: 「ほら兄さま、見てください。このスタンプ可愛くないですか?」 時雨: 「試しに時雨が作ってみたのですが、それなりに結構人気あるんですよ?」 嘉祥: 「え……ショコラとバニラ? と、うちの制服……?」 画面にはデフォルメされたショコラとバニラ。 看板持ってたり居眠りしてたり、どれも確かに可愛く出来てる。 俺はライソのことは良く分からないけど。 でも確かにキャラクターとして売ってるレベルだと思う。 嘉祥: 「……お前って、昔から無駄な才能結構持ってるよな」 時雨: 「陰ながら少しでも兄さまのお店を広められればと思いまして」 時雨: 「兄さまはお菓子作りの才はあっても、そういう商売気質ではありませんからね」 時雨は昔からインターネットとか詳しかったからなぁ……。 確かに開店翌日からいきなり客足が増えたのは不思議には思ってたけども。 『ネットで見て』『ドゥイッターで見て』と言ってたお客さんが多かったのも納得だ。 時雨: 「これも妹めの愛にございます。褒めて下さいますか?」 嘉祥: 「ああ、助かったよ。色々ありがとな(なでなで)」 時雨: 「えへへ。時雨は兄さまになでなでしてもらうの大好きです。えへへ~♪」 甘えた声を出しながら時雨が気持ちよさそうに目を細める。 本当に気のよく回る妹に助けられてるなぁ。 小さな立役者に感謝の気持ちを込めて頭を撫でる。 メイプル: 「ま、困った時は大体110に電話すれば大丈夫らしいわよ」 メイプル: 「ちなみに命が危ないっぽい時は119ね。これだけ覚えとけば大丈夫」 ショコラ: 「メイプルちゃん、すまふぉが明日は雨だって言ってる! じめじめするって!」 シナモン: 「む、虫がね? その、せ、せーしを……せーえきをっ……!」 シナモン: 「あっ、違! 花粉を、は、運ぶの……! 花粉だからね? はぁぁぁっ……♪」 シナモン: 「それで、めしべのね? アソコにアレして、妊娠って言うかはぁぅぅっ……♪」 バニラ: 「虫が代わりにえっちするの? 代理えっち?」 シナモン: 「にゃあぁぁんっ……♪ え、えっちとか恥ずかしいこと言っちゃダメぇっ……♪」 シナモン: 「ヒトの女の子は……は、恥じらいを持たなきゃダメなんだよ……!?」 シナモン: 「バニラちゃんがそんなこと言うなんてっ……シナモン、潤っちゃうぅぅぅぅっ……♪」 バニラ: 「シナモン、ヨダレがパない。ふきふき」 嘉祥: 「……一応、聞いとくけどさ」 嘉祥: 「鈴持ちって、本当に一匹で外歩かせて大丈夫な資格なのか?」 時雨: 「我が家のネコたちはみな優秀なネコたちです」 時雨: 「ネコたちの反省会は私がやっておきます故、ご安心下さいませ兄さま」 時雨: 「そしてこんなこともあろうかと、ここに鈴マニュアル虎の巻を持って参りました」 時雨: 「兄さまもショコラとバニラの飼い主として、こちらを読んで頑張って下さいませ」 嘉祥: 「飼い主として頑張ります」 こんなことも予想してたのか。 そんな野暮なツッコミは飲み込んでおくことにしつつ。 相変わらずまったく進む気配の無い勉強会を眺めていた。 嘉祥: 「よし。あとはアップルパイの中身だけだな」 仕込みリストを指差し確認して呟く。 時計を見ると21時過ぎ。 鈴の勉強会で時間を使ったとは言え、休日の仕込みは余裕がある。 ショコラ: 「ご主人さまー、ご主人さまー! 見て、見て下さいー!」 バニラ: 「ついに私たちはネコの限界を超えた。完璧」 嘉祥: 「ずいぶん早いなー限界超えるの」 ショコラ: 「それはご主人さまへの愛ゆえでございます。ポッ」 嘉祥: 「時雨の真似せんでいい」 時雨たちが帰って、自主勉強を初めてから2時間も経ってない。 掛け算が出来るようになったとかそんなところだろうか。 バニラ: 「む。ご主人の今の顔。私たちが割り算を覚えた程度だと思ってた」 惜しい。そこまで行ってなかった。 やる気を削ぐようなことは黙ってるとして。 ショコラ: 「ふふふ~、ご主人さま! ちょっとノドをごろごろして下さい!」 ショコラ: 「ショコラはネコの喜びをポーカーフェイスで我慢してみせますよ?」 嘉祥: 「こんな感じか?(のどもとなでなで)」 ショコラ: 「ごろごろごろごろ~♪」 嘉祥: 「ダメじゃん」 ショコラ: 「にゃー! しょうがないじゃないですか! 大好きなご主人さまですもん!」 ショコラ: 「誰にでもごろごろ言う安いネコだと思わないで下さい!!」 バニラ: 「ショコラ、喉元なでなで~」 ショコラ: 「ごろごろごろごろ~♪」 嘉祥: 「全然ダメじゃん」 バニラでもごろごろ言ってるし。 一体何をアピールしに来たんだろうか。 ショコラ: 「じゃ、じゃあバニラだってやってみてよ! 出来るの!?」 バニラ: 「私は余裕に決まってる。ネコ騙しも通じない胆力」 バニラ: 「カモン、ご主人。好きにしてごらん?」 嘉祥: 「じゃあ、こんな感じで(のどもとなでなで)」 バニラ: 「んっ……は、ふぅっ……♪ ん、んんっ、んん~っ……♪」 嘉祥: 「…………(のどもとなでなで)」 ショコラ: 「見てご主人さま! バニラのしっぽ! しっぽがピーンって!!」 ショコラ: 「天を突く勢いでピーン! バニラめっちゃ喜んでるよ!!」 バニラ: 「ち、違う……! それは、そのっ……!」 バニラ: 「そう、言うなればショコラが近くにいるからその愛であって……!」 嘉祥: 「テストの時も一緒にいるだろうからなー」 言い訳だということには触れず。 バニラも無口なだけで、ショコラに負けず素直だしなぁ。 ショコラ: 「今のはたまたま失敗しただけなんです!」 ショコラ: 「他のテストも試して見て下さい! 絶対に大丈夫ですから!」 バニラ: 「そう、他のはすべて合格ラインだから大丈夫」 バニラ: 「このネコ殺しのテスト項目、全部試してくれればいいと思う」 嘉祥: 「はぁ、この項目をねぇ……」 虎の巻についてた過去問を受け取って目を通す。 確かにネコの習性が勢揃いになっている。 嘉祥: 「じゃあ上から順にやってくからな?」 ショコラ: 「まっかせて下さい! ご主人さまのネコですから!」 バニラ: 「どんとうぉーりー」 嘉祥: 「はい」 ショコラ&バニラ: 『「くんくんくんくん」』 嘉祥: 「くんくん我慢、アウト」 嘉祥: 「ちなみにこの指はさっきまでブルーチーズ触ってました」 ショコラ&バニラ: 『「う゛にゃあぁあぁぁっ……!!」』 嘉祥: 「はい、フレーメン反応もアウトな」 嘉祥: 「はい次」 ショコラ&バニラ: 『「ぎにゃあぁぁっ!?」\n「にゃあぁぁっ!?」』 ショコラ: 「あぁ……あ、ああぁ……ごしゅ、じん……あぅぅぅ~……」 バニラ: 「シャーッ! 何するの! シャーッ!」 嘉祥: 「はい、猫騙しもアウトー」 ショコラ: 「にゃにゃっ! にゃっ、にゃにゃにゃっ!!」 バニラ: 「にゃにゃっ! にゃっ、にゃにゃにゃっ!!」 ショコラ: 「うにゃにゃにゃにゃにゃーっ! にゃにゃっ! にゃにゃにゃーっ!!」 バニラ: 「うにゃにゃにゃにゃにゃーっ! にゃにゃっ! にゃにゃにゃーっ!!」 嘉祥: 「ネコじゃらし、アウトー」 ショコラ: 「うへへへ~♪ くるしゅうない、くるしゅうない~♪」 ショコラ: 「またたびさいこう、もうほんっとさいこうですにゃぁ~ごろごろごろ~♪」 バニラ: 「のうずいがとろけるこのかんかく……ぱない、ほんとぱない……♪」 バニラ: 「ちこう、もっとちこうよれ~、にゃふふへふふほほ~♪」 嘉祥: 「マタタビもアウトー」 ショコラ: 「にゃははは~♪ ばにら、あうとにゃってーにゃはははは~♪」 バニラ: 「すべてがどうでもいい~、にゃたたびとともにわたしはねむる~Zzz……」 初またたびで、まごうことなき酔っ払い。 ……大丈夫なのかな、こんな調子で。 まぁ初日だし。そう思うことにしよう、うん。 嘉祥: 「ほら、寝るなら自分らのベッドでなー」 ショコラ: 「にゃぁん~♪ ベッドなんてご主人さまのえっち~♪」 バニラ: 「わたしたちをこんなに酔わせてどうするつもりにゃ~」 嘉祥: 「もーお前らはもーめんどくさいなー」 嘉祥: 「ほら行くぞ。掴まって良いから立てって」 ショコラ: 「にゃーん♪ ご主人さま、だっこがいいです~♪」 バニラ: 「ネコづかみは、ネコづかみは愛を感じにゃいの~」 これは絶対にダメだ。ダメな気しかしない。 ベロベロになってる二匹を寝床まで運びながら。 後で虎の巻を一生懸命読もうと胸に誓った。