ショコラ: 「にゃー、めっちゃ高い! めっちゃ高いですよご主人さまー! にゃははははー!」 バニラ: 「人がゴミのようとは良く言ったものだと思う。ね、ご主人?」 嘉祥: 「……そ、そう……だな……」 ショコラ: 「どうしたんですか、そんな青い顔して?」 バニラ: 「顔がサツマイモみたいな色してる」 嘉祥: 「そ……そう……か? そう、かもな……」 ショコラ: 「あれー? いつもならサツマイモは青くねーよ、とかツッコんでくれるのに」 バニラ: 「今のご主人はノリが悪い。一言でいうと寒い」 嘉祥: 「いや、寒いとかそういうんじゃなくてだな……?」 百景島シーパラダイスの名物アトラクション『ブルーフォーリング』頂上付近。 周りに見えるは空、空、空。 頼りの地上は遥か遠く。 『国内最高の107メートルからの未体験落下』に偽りなし。 にゃーにゃーと泣かれて仕方なく乗ったはいいものの。 俺は今世紀最大の生命危機のまっただ中にいた。 嘉祥: 「むしろ……なんでお前らは、そんな余裕なんだ……?」 ショコラ: 「え? 何で高いと無理にゃんです? きもちーじゃないですかー♪」 バニラ: 「ネコは高いところに登ると比例してテンション上がる」 バニラ: 「まさに今の私たちのテンションは地上107メートル」 嘉祥: 「それはたまたま、お前らが高いところが好きなだけでは……?」 バカと煙は、と言う余裕もなく。 ただひたすらに上がる高度と恐怖心に震え上がる。 そして、永遠に続くかと思っていた無慈悲なモーター音が、 ――止まった。 アナウンス: 「……3、2、1」 アナウンス: 「バイバーイ♪」 嘉祥: 「ぎゃああぁあぁぁああああああっぁあぁぁあぁ!!!」 ショコラ&バニラ: 『「にゃあぁあぁあああぁぁあぁあぁあああぁあぁっ♪♪♪」』 嘉祥: 「んぎゃああぁあぁあぁあぁぁあぁぁぁあぁああぁああああああっぁあぁぁあぁ!!!」 ショコラ&バニラ: 『「にゃあぁあぁああぁあぁああぁああぁあぁあぁあぁあぁあああああぁあぁーーーっっっ♪♪♪」』 嘉祥: 「んぎゃああぁあぁあぁあぁぁあぁぁぁあぁああぁああーーーーーっっっ!!!」 ショコラ: 「にゃはははははご主人さますごい顔してにゃはははあははあはははーーーっっっ♪♪♪」 バニラ: 「ご主人が泣いて叫んでにゃははははあははははあぁあああああぁあぁーーーっっっ♪♪♪」 ショコラ: 「はいどー! はいどー! にゃはははははー♪」 ショコラ: 「キラキラ! めっちゃキラキラでたのしーにゃははははー♪」 バニラ: 「はいどー、はいどー。これは地味に楽しい」 バニラ: 「この単調な上下がものすごいクセになる……♪」 ショコラ: 「ご主人さま、どうしたんですか?」 バニラ: 「まさかこの速度でも怖いとか」 嘉祥: 「いやちょっと、この歳になってこれは……恥ずかしいだけでして……」 ショコラ: 「ぴぎゃあぁあぁあぁぁご主人さまぁあぁぁあぁっっっ!!」 ショコラ: 「こ、こここっこっっここ殺される殺されてしまいqwせdrftgyふじこlp!!」 嘉祥: 「作りものだから! 殺されないから落ち着けって!」 バニラ: 「ネコは、ビビリレベルマックスになると動けなくなる……」 バニラ: 「あとネコとして大事な尊厳とか他にも色々なものが漏れそう……!」 嘉祥: 「ちょっと待て! そこに非常口あるから! そこまで我慢!!」 バニラ: 「私は、最後まで勇敢なネコであったと……時雨に……! うっ!!」 嘉祥: 「今の『うっ』って何!? そこで諦めんなって!! おいバニラ!!」 ショコラ: 「にゃー! にゃー! ご主人さま! 次あれ! 次あの回るやつ乗りましょう!!」 バニラ: 「にゃー、にゃー。あのすごい速いのもいい。落ちるのももう一回」 嘉祥: 「ちょっと……休ませて下さい、ほんと……まじで……」 ふらふらとベンチに腰を降ろしてグロッキー。 遊園地がこんなにドギついものだったとは……。 ショコラ: 「ご主人さま、せっかくのデートなのに情けないですよー?」 バニラ: 「そーだそーだ。せっかくお店休みにして遊びに来たのに」 嘉祥: 「分かってるってば。ちょっと休むだけだって」 ショコラ: 「もー、しょうがないですにゃあ」 ショコラ: 「でもショコラは理解のある恋ネコなので許してあげます♪」 バニラ: 「別に私はショコラだけでもいいけど、ご主人を待ってあげる」 ショコラ: 「もーバニラは素直じゃないんだからー」 ショコラ: 「今朝だって一緒に一生懸命おめかししてたくせにーコノコノー♪」 バニラ: 「違う。新しい服、初めてだからちょっとだけ着るのに苦労しただけ」 頬を指で突かれながらイヤイヤするバニラ。 まぁ、この口ぶりが実にバニラらしい。 家ではずっと尻尾立ちっぱなしだったし。 ちなみに、お外ではスカートがめくれるから耐えてるらしい。ショコラ談。 耐えられるものなのかどうか、人間には分からないけど。 嘉祥: 「その服もよく似合ってるぞ、二匹とも」 ショコラ: 「うわーい、ほんとですかー? やったぁ♪」 ショコラ: 「ご主人さまが遊園地に連れて行ってくれるって言ったら、時雨ちゃんがプレゼントしてくれたのです!」 バニラ: 「これ、私もすごくお気に入り。だから褒めてもらえると、ちょっとだけ嬉しい」 くるりと回って、背中まで俺に見せてくれる。 白い服が陽射しをキラキラと弾いて。 いつもより少し派手なのも、今日が特別って感じで可愛らしい。 ……そんなこと、思っても言えないから。 嘉祥: 「ああ、本当に良く似合ってる」 もう一度短くそれだけを口にする。 ショコラ: 「にゃ~♪ ご主人さまにも可愛いって言ってもらえて嬉しいにゃ♪」 ショコラ: 「ね、バニラ? バニラも嬉しいんでしょ? にへへ~♪」 バニラ: 「……まぁ、それなりには」 ショコラ: 「にゃぁ~ん♪ 照れちゃって~ほっぺつんつんー♪」 いちゃいちゃと絡みながら浮かれる二匹。 こんなにショコラとバニラが喜んでくれたら、 少し無理しても休みを取って連れて来て良かったなぁ。 ショコラ: 「でも、お店忙しいのにお休みなんて……いいんですか?」 バニラ: 「ご主人、最近疲れてると思うけど……」 嘉祥: 「そうだな。疲れてるから、リフレッシュに来たんだろ?」 嘉祥: 「お前らがそんなこと気にしないでいいんだって」 嘉祥: 「ネコはネコらしく、素直に楽しめばいーの」 心配そうに俺を覗き込む二匹をくしゃくしゃっと撫でる。 ショコラ: 「にゃぁっ! ご主人さま、わしゃわしゃしちゃダメですってばぁ~!」 バニラ: 「にゃぁっ……! せっかくセットしたのにぼんばっちゃう~……!」 女の子: 「わぁママ見て! 百景島のネコちゃんだー! かわいー!」 女の子: 「ねーねー、お兄さん! 写真撮ってもいーですか?」 嘉祥: 「あ、いやこのネコたちは百景島のネコじゃなくて……」 母親: 「すみません、ウチの娘が大変失礼を……!」 母親: 「こら、ダメでしょ? このネコちゃんたちは遊園地のネコちゃんじゃないのよ?」 ショコラ: 「いいよ、写真撮ろー♪ せっかくだし一緒に撮ろっか?」 バニラ: 「あ、でもさっきご主人にくしゃくしゃされたからちょっと鏡タイム」 母親: 「え、いいんですか? でも……」 遠慮がちにお母さんが俺の方を見る。 嘉祥: 「全然構わないですよ。本人たちもそう言ってますし」 ショコラ: 「かわいーって言ってくれたし、写真くらいなんでもないです!」 バニラ: 「あ、時雨にも記念写メ送らないと。ご主人もケータイで撮って」 嘉祥: 「……ってことですし」 嘉祥: 「こっちも撮らせてもらってもいいですか?」 母親: 「はい、そういうことでしたら、お言葉に甘えさせて頂いて」 女の子: 「わーい! ありがとう、ネコちゃんたち!」 女の子: 「じゃあママの電話貸して! いっぱい撮ってもらうー!」 ショコラ: 「ほら、もっとこっち寄らないと一緒に写らないよ? おいでおいで♪」 バニラ: 「じゃあ私はだっこサービスしてあげちゃう。ネコは意外に力持ち」 ショコラ: 「お、いいねーいいねー! じゃあどんどん撮っちゃおう! はい、ちーず!」 バニラ: 「じゃあ次は私が撮ってあげちゃうね? マスコミ系超連射」 嘉祥: 「……何か意外な光景だな」 俺の前じゃショコラとバニラが子供みたいなのに。 ネコでも女な以上、母性本能があるのかな。 子どもと一緒に遊んでる姿は微笑ましいし。 何というか普段よりも少しお姉さんっぽく見える気がする。 バニラ: 「ご主人もちゃんと撮って。今日のメモリー」 ショコラ: 「そうですよ? 今日はショコラたちにとって記念すべき日なんですから♪」 嘉祥: 「はいはい、チーズチーズ」 ショコラ: 「あー! なんかすごいテキトー感!」 ショコラ: 「撮る時にもっと愛情込めて欲しいです!」 バニラ: 「そういうやっつけ良くない。めっちゃ良くない」 バニラ: 「被写体の気持ちを考えないと良い写真は撮れないと聞き及ぶ」 嘉祥: 「もっといくぞー笑顔笑顔ー」 ショコラ: 「もー! ご主人さまー! もっと愛が! 愛が欲しーのです!!」 バニラ: 「ご主人はオンナゴコロがまったく分かってない。私たちは誠に遺憾」 スネてる顔も可愛くて思わず悪ノリ。 ……何とも甘い、甘い時間だなぁこれは。 そんなことを思ってしまう自分が浮かれてるけど。 女の子: 「あはは、ネコちゃんたちのスネた顔もかわいー♪」 ショコラ: 「んにゃっ!? こんなところとっちゃダメにゃってばー!」 バニラ: 「なんという油断……! ネコ肖像権に抵触にゃ……!」 女の子: 「かわいーから大丈夫だよー?」 女の子: 「ほらチーズチーズー♪」 ショコラ: 「だから今はだめにゃって言ってるのにー!」 バニラ: 「必殺ネコスマイル。にぱー」 女の子: 「きゃーん、かわいー♪ 目線こっちでー♪」 母親: 「大事なデートの時間をおじゃましちゃってすみません」 母親: 「どうもありがとうございました。では」 女の子: 「ばいばーいネコちゃんたち! ありがとー!」 ショコラ: 「にゃー、楽しかったにゃあ♪」 バニラ: 「多少の辱めも受けたけどまぁ結果オーライ」 ショコラ: 「小さな子ってやっぱり可愛いよねぇ」 バニラ: 「こどもの無邪気さにはネコでも勝てない」 嘉祥: 「……やっぱりデートに見えるんだな」 時雨に写メ送信をしながら改めてそう思う。 もちろんデートに間違いはないんだけども。 いや、もちろん悪い気がするって言うんじゃなくて。 そうハッキリと言葉にされると……。 周りの目を妙に意識してしまって照れくさいと言うか。 甘いとか思ってしまうのも柄に合わないのは分かるけど……。 ショコラ: 「にゃー、にゃー♪ ご主人さまー♪」 ショコラ: 「ニヤニヤしてないで次行きましょう、次ー!」 嘉祥: 「え? ニヤニヤって……」 バニラ: 「超ニマニマしてた。なんていうか、エビス顔」 バニラ: 「エロっぽい感じでもあった気もする」 嘉祥: 「エロっぽいって、そんなことは別に……!」 ショコラ: 「あはは、そんな照れなくてもいいにゃないですかー♪」 バニラ: 「ご主人がエロいことなんて知ってるし」 嘉祥: 「……お前らだって、十分エロいくせに」 ショコラ: 「そうですにゃー、否定は出来ないですにゃぁ♪」 バニラ: 「ペットは主人に似るって言うから、仕方ないね」 ますますの笑顔で両手に巻き付いてくる二匹。 ……言い返しても否定もされないとは。 ネコも成長すると変わるもんだなぁ……。 そんなことを思いながら指摘された顔を引き締める。 でも無意識の内にまた緩んでしまっていた。 ショコラ: 「似たもの同士でいいにゃないですかー♪」 ショコラ: 「じゃあ次はちょっとゆったりしたのにしましょーか?」 バニラ: 「まだまだお昼過ぎ。時間もあることだしね?」 バニラ: 「今日は疲れたなんて言わせない」 嘉祥: 「お前らこそ、疲れたなんて言わせないからな?」 嘉祥: 「今日は一日お前らのために空けた時間なんだから」 ショコラ: 「にゃーん♪ ご主人さま、たのもしー♪」 バニラ: 「くす、強気なご主人だにゃあ。れっつごーごー♪」 ……俺もこいつらに負けずに浮かれてるかな。 二匹と左右の腕を絡めたまま、 三人で遊園地の奥に向かってまた歩き始めた。 ショコラ: 「ふわぁ、おっきい……! 水槽! めっちゃおっきい!」 バニラ: 「すごい……! 海底トンネル……! 頭の上にサカナ……!」 ショコラ: 「あ、あっち! あっち見てバニラ!」 ショコラ: 「白イルカちゃんだ、白イルカちゃんがいるよー!」 バニラ: 「おお……ほんとに白い! まるで燃え尽きたように真っ白……!」 バニラ: 「ほんとに私の毛並みと一緒、超かわいい……!」 ショコラ: 「ほんとにぬいぐるみと同じ! ショコラ感動です!」 嘉祥: 「ほら。ショコラもバニラも足元見て歩かないと転ぶぞー」 ショコラ: 「あっちにはジンベエ! ジンベエザメがいるよ!」 ショコラ: 「すっごいおっきー! いっぱいお魚連れてるー!」 バニラ: 「ジンベエ、超でっかい……! こんなでっかい生き物見たことない……!」 バニラ: 「下に付いてるのはきっと社員たち……!」 バニラ: 「でもご主人が買ってくれたぬいぐるみには社員がいない……」 俺の注意も耳に入らずに水槽に目を輝かせている二匹。 キラキラと光る太陽が真上から降り注いで、 神秘的で眩しい景色が周りに広がっている。 『海中散歩』という謳い文句通り、 本当に海の中を歩いてるような水槽に見惚れてしまう。 ショコラ: 「ご主人さま! あのサカナ! あれはなんて言うんですか!?」 嘉祥: 「えーと、案内板にはデバスズメダイって書いてるな」 ショコラ: 「でばすずめだい! でばすずめだいだってバニラ!」 バニラ: 「でばすずめだい。思い出に覚えた。完璧」 いやそんなの覚えなくても。 そう思いつつも微笑ましいネコたちを黙って見守る。 ショコラ: 「遊園地も水族館も、初めて来れたから楽しいです!」 ショコラ: 「すっごくすっごくすっごく楽しいです、ご主人さま!」 バニラ: 「私も超嬉しい。そうは見えないかもしれないけど、ネコ生でかなり上位にはいるはしゃぎっぷり」 バニラ: 「ご主人の株が今朝から青天井。超感謝してる」 嘉祥: 「ああ。お前らが頑張って鈴取ったからだな。よしよし」 ショコラ: 「はい! あの時一生懸命に頑張ってよかったです!」 バニラ: 「お店も手伝えて、遊びにも来れて。鈴最高。超最高」 金色と銀色の鈴も小さく返事をする。 こんなに喜んでくれるなんて、 もっと早く連れて来てあげられたら良かったな。 なかなか仕事を空けられるタイミングがなくて、 仕方がなかったと言えばそれまでだけど……。 ショコラ: 「わぁ、見て見てご主人さま! バニラ!」 ショコラ: 「マグロだよマグロ! いっぱい泳いで来た!!」 バニラ: 「おっきい……! すごい、圧巻……! 超速い……!!」 嘉祥: 「そうだな、絶景だなぁ」 でも今後は、ショコラとバニラのためにも頑張らないとな。 いや、このネコたちのために頑張りたい。 素直にそう思える。 ショコラ: 「すごい元気で新鮮でおいしそー……じゅるり♪」 バニラ: 「大トロいっぱい。よだれ出てくるよだれ……じゅるり♪」 嘉祥: 「そういうネコ的な感想は大声で言わない。な?」 ……やっぱりネコなんだなぁ。 そんなことを思いながら、ハンカチで口元を拭う二匹を眺めていた。 ショコラ: 「にゃー、楽しかったにゃー♪」 ショコラ: 「こういう落ち着いたのもデートっぽくていいですにゃあ」 バニラ: 「水族館、超最高だった……海に還りたくなる……」 嘉祥: 「また連れて来てやるから。危険な思想しない」 ぽけーっとしているバニラの頬をぺちぺちと叩く。 ……まさか本気で思ってないよな? な? ショコラ: 「ご主人さま。ちょっとトイレ行ってきていいですか?」 バニラ: 「あ、じゃあ私も一緒に行く」 嘉祥: 「分かった。じゃあここで待ってるな」 ショコラ: 「はーい、お願いしまーす♪」 バニラ: 「ご主人、お願い」 嘉祥: 「あいよ。急がなくていいからなー」 荷物を受け取って二匹を見送る。 嘉祥: 「……トイレも少し混んでそうだし、ベンチにでも座ってるかな」 近くのベンチを探して見回してみる。 スタッフ: 「ぬいぐるみ、好きなんですか?」 手には百景島のイラスト入りの風船。 制服の胸のところにも百景島のロゴが書かれている。 スタッフ: 「両手。シロイルカとジンベエザメ持ってるから」 ショコラとバニラから受け取ったぬいぐるみに指を差す。 嘉祥: 「ああ、これは俺のじゃなくてネコたちの荷物で」 スタッフ: 「ああ、すみません。見てましたから」 スタッフ: 「ネコちゃんたちが、ぬいぐるみ好きなんですかって」 スタッフ: 「勘違いさせちゃってすみません、あはは」 遊園地のスタッフらしい笑顔で、 ペコリと小さく頭を下げられる。 スタッフ: 「すっごく可愛いネコちゃんたちでしたね。恋ネコちゃんですか?」 嘉祥: 「あ、彼女って言うか……」 嘉祥: 「……まぁ、そうなるの……かな?」 スタッフ: 「あはは、照れなくてもいいじゃないですか♪」 嘉祥: 「いや、まだ慣れてなくて……」 図星に苦笑いを返す。 もっと堂々としてればいいとは思うんだけど。 でもやっぱり、そうすぐには気恥ずかしさも拭えそうにない。 スタッフ: 「あんなに懐いてて、ちゃんと鈴も取らせてあげて」 スタッフ: 「立派な飼い主さん……いえ、素敵な彼氏さんですね?」 嘉祥: 「そう出来てたらいいんですけどね」 嘉祥: 「良く出来たネコたちに助けられてるだけで……」 スタッフ: 「あはは。大丈夫ですよ心配しなくても」 スタッフ: 「あんなに慕われてるんですから、もっと自信持っていいと思いますよ?」 スタッフ: 「実は、私も家でネコ飼ってるんです」 スタッフ: 「これがまた全然言うこと聞かないんですけどねぇ」 困った笑顔で首をすくめて見せる。 その笑顔から溺愛ぶりが十二分に伝わってくる。 スタッフ: 「だから親近感が湧いて、思わず声掛けちゃいました」 スタッフ: 「本当は来園者にひとつなんですけど……」 スタッフ: 「サービスで風船2個あげちゃいますね?」 スタッフ: 「ぜひネコちゃんたちにあげて下さい♪」 差し出された風船の紐を受け取る。 嘉祥: 「ありがたく頂きます」 嘉祥: 「あいつらのことだから喜ぶと思います」 スタッフ: 「はい、喜ばせてあげて下さい♪」 スタッフ: 「じゃあ私はこれで失礼しますねー」 嘉祥: 「……恋ネコ、なんだよな」 改めて口に出してみる。 今のは不意打ちではあったけど。 ……でも、俺ももっと堂々としなくちゃな。 次にこういうことがあったら、胸張って答えられるように。 こういう性格が、時雨に『肩肘張ってる』って言われるのかもだけど。 嘉祥: 「ま、堅い性格も今さら直るもんでもないし……って」 嘉祥: 「んん?」 ショコラ: 「ふにゃぁ……! ほんの少し、ほんの少しトイレに行ってただけなのに……!」 ショコラ: 「もう他の女のヒトと仲良くしてるにゃんてぇ……! ふえぇぇ……!」 バニラ: 「男のヒトは浮気はオスの本能だって開き直るらしい。サイテーだね」 ショコラ: 「ふぇぇ、バニラぁ……! 悲しい、ショコラは悲しいよぉ……!」 バニラ: 「ショコラにはバニラがついてるから。泣かないの。よしよし」 バニラ: 「帰ったらご主人のパンツに練りワサビと練りカラシ塗っておくね」 ショコラ: 「でもそれでご主人さまのオトコの子が勃たなくなっちゃったらショコラも困るし……」 バニラ: 「でも浮気は恋ネコとして厳罰を持って怒らないと」 バニラ: 「都合のいいネコになっちゃダメってテレビでやってた」 ショコラ: 「ショコラには、そんなこと出来ないよぉ……」 ショコラ: 「所詮ショコラは都合のいいネコがお似合いにゃのね……ふぇぇ……」 嘉祥: 「うわ、なんてめんどくさい……」 あからさまな誤解でアレだけ妄想が膨らむとは……。 しかもパンツにトラップって。 バニラも考えることがえげつないなぁ……。 嘉祥: 「……とりあえず誤解を解かないとな」 やれやれと思いながら、 まだ突っ伏して嘆いてるショコラの下に向かった。 嘉祥: 「ショコラ、バニラ。風呂入ったぞー」 嘉祥: 「おーい、ショコラ、バニラー?」 ショコラ: 「すー……すー……ごしゅじん、さま……すー……」 バニラ: 「にゃむ……ごしゅじん……すー……すー……」 嘉祥: 「……今日は一日中遊んだもんな」 ソファで寝息を立てている二匹の顔を覗き込む。 嘉祥: 「ここ最近はずっと、あんまり構ってやれなかったからな……」 時雨よりも俺に懐いてくれてたのは知ってたけど。 ここ数ヶ月は家を出るための準備もあったし。 自分のことに必死で、こんな風に遊んであげる時間はなかった。 嘉祥: 「……ほんと、こんなところまで良く付いてきたよ」 こいつらを拾った時には、 本当に自分の店を持つことになるとも。 二匹が追っかけて来ることも。 まして二匹とこんな関係になるなんて。 そんなこと考えもしなかったな……。 嘉祥: 「……でもお陰様で、毎日が楽しいな」 愛おしい頬にそっと手を添える。 ショコラ: 「……ん、にゃ……? ごしゅじん、さま……?」 ショコラ: 「あっ……! ご、ごめんなさい、ついウトウトしちゃって……!」 バニラ: 「仕込み、終わっちゃった……? 私も手伝う……」 嘉祥: 「明日の仕込みはもう終わったよ」 嘉祥: 「いいから、そのまま寝てろって」 眠そうに目をこする二匹の頭を撫でて。 起こしかけた身体をソファに座らせてやる。 ショコラ: 「……今日は本当に楽しかったです」 ショコラ: 「ショコラたちの行きたいって言ってたところ……」 ショコラ: 「覚えててくれて嬉しかったです。ご主人さま」 バニラ: 「初めての遊園地も水族館も、すごく楽しかった……」 バニラ: 「みんなでいっぱい写真も撮ったし。すごく、良い思い出」 優しくて穏やかな笑顔で。 幸せを噛みしめるように目を細める。 ショコラ: 「ありがとうございます、ご主人さま。大好きです」 ショコラ: 「ちゅ」 バニラ: 「私も、感謝の気持ち」 バニラ: 「ちゅ」 両方の頬に柔らかい口唇が触れて、 ショコラとバニラが俺の肩に頭を預ける。 嘉祥: 「俺も、楽しかったよ。ありがとうな」 俺もそれぞれのおでこにキスを返す。 ショコラ: 「はぁ……ほんとに大好きです、ご主人さまのこと……」 ショコラ: 「こうしてもらってるだけで……すごくドキドキして……」 ショコラ: 「胸が暖かくなって……その……ご主人、さま……」 バニラ: 「……うん、分かる。すごく胸がどきどきして……」 バニラ: 「その、身体がもじもじする……ご主人……」 微熱で潤んだ瞳に挟まれる。 その意味が分からないほど無粋じゃない。 嘉祥: 「……また発情期か?」 二匹が静かに首を振る。 ショコラ: 「……たぶん、今は発情期は関係ないです」 ショコラ: 「ご主人さまが好きで……好きだから、えっちしたいって思うんです」 ショコラ: 「鈴のテストで、ヒトは恥じらいを持たなくちゃダメって教えてもらいましたけど……」 ショコラ: 「……これって、ダメなことですか?」 嘉祥: 「ショコラ……」 バニラ: 「発情期の時は、身体が無理矢理えっちな感じになるけど……」 バニラ: 「……今は、ココロが身体をえっちにしてる感じ」 バニラ: 「好きなヒトとのデートなら最後はえっちするって聞いた」 バニラ: 「……ご主人は私たちのこと、好きでしょ?」 嘉祥: 「バニラも……」 さっきよりも濡れた声で。 柔らかく色っぽい視線を俺に絡ませる。 嘉祥: 「……そんなこと、今さら聞くまでもないだろ?」 嘉祥: 「俺も、お前らが好きだよ」 今度はその薄くて小さな口唇へ。 恋人のキスをそっと重ねる。 ショコラ: 「くす、ご主人さまらしいですね……?」 バニラ: 「素直じゃないくせに、キザだから」 満足そうにぎゅっと抱きついてくる。 ショコラ: 「じゃあ、今日はショコラたちにさせて下さいね……?」 バニラ: 「今日のお返し、いっぱいしてあげる……♪」