ショコラ: 「いにゃっしゃいませー! ソレイユへよーこそー♪」 ショコラ: 「よーこそいらっしゃいました!」 ショコラ: 「お持ち帰りですか? それとも店内でお召し上がりですか?」 バニラ: 「イートイン2名様、こちらのテーブルへどうぞ」 バニラ: 「ただいまメニューをお持ち致しますのでお待ち下さいませ」 メイプル: 「今日のオススメはトワイニングのアールグレイね」 メイプル: 「あたしが気に入って取り寄せた紅茶だから間違いないわよ?」 シナモン: 「ケーキのオススメはフルーツショートケーキです~」 シナモン: 「ですからアールグレイとの相性バッチリなんですよ~♪」 時雨: 「ココナツ。配達用のケーキ3つ、兄様から受け取って来てくれる?」 ココナツ: 「かしこまりました、時雨さま」 ココナツ: 「こういう力仕事こそ私にお任せ下さいませ」 時雨: 「アズキは3つともプレゼント用のリボンがけね」 アズキ: 「めんどくせーなー、あいよー」 アズキ: 「あ、リボン切れそうじゃねーか」 アズキ: 「ったく、使った奴が注文入れとけよなー」 ショコラ: 「あ、またまたいらっしゃいませー♪」 バニラ: 「ご新規二名様ご案内ー」 メイプル: 「あ、シナモン。ついでにアールグレイの新しいの出して来て」 シナモン: 「分かりました~嘉祥さんのところに行ってきますね~」 時雨: 「『今日もソレイユは張り切って営業中です』と、ブログ更新♪」 ココナツ: 「時雨さま、外にもお客様がいらっしゃるので列の整理をして参ります」 アズキ: 「あーあー、もう小銭も切れそうじゃねーか」 アズキ: 「レジの奴はどこ見てんだまったくよー」 開店から少し時間が経って夏に差し掛かる季節を前に。 ソレイユはネコまみれのネコパティスリーとして人気店の仲間入りを果たしていた。 嘉祥: 「……予定とはちょっと違うけど、まぁいっか」 人数だけこんなに増えて一時はどうしたものかと思ってたけど。 時雨のマネージメントのお陰でこの人数でちょうど回るくらいの繁盛っぷりだ。 時雨: 「兄様。またインターネットで注文が入りましたので予定に書いておきますね」 時雨: 「これで今月も半分でノルマ達成です。おめでとうございます♪」 嘉祥: 「完全に時雨のお陰だよ。ありがとな」 嘉祥: 「俺はインターネットとかよくわからないから、めちゃくちゃ助かる」 時雨: 「大したことは何も。全ては兄様のケーキが美味しいからです」 時雨: 「……でも、少しだけワガママを聞いて下さるならば」 時雨: 「兄妹の嗜みとして、ぎゅっとして褒めて下さいますか?」 嘉祥: 「そんなことくらいいくらでも」 時雨: 「兄様ぁ~♪ 兄様ぁ~ごろごろごろ~♪」 ネコみたいに喉を鳴らしながらしがみついてくる。 時雨も我が妹ながら可愛いもんだ。 ついでに頭ナデナデのオプションも付けてあげる。 時雨: 「さっきもブログ更新しましたから、これでまたアクセス増えますね♪」 時雨: 「自慢のネコたちの写真を上げて、見せびらかすだけでアクセスが伸びていく……」 時雨: 「あぁ、こんなに簡単で楽しい広報活動があるなんて……♪」 時雨: 「兄様のソレイユが世界進出する日も遠くありませんよ! ほーっほっほっほー♪」 ……我が妹ながら、末恐ろしい商才だなぁ。 時雨のネットマネージメントがことごとくハマってるのは確かだけど……。 でも世界進出とか考えてないんだけどなぁ。 とりあえず時雨に何となく頷いて返しておく。 嘉祥: 「もう表の方の客足は落ち着いたのか?」 時雨: 「まだまだ絶賛営業中ですが心配はご無用です、兄様」 時雨: 「ほら、ご覧下さいませ」 内窓から店内の様子を伺ってみる。 アズキ: 「おいショコバニ。片方が食器下げたら片方がテーブルセットしとけ」 アズキ: 「案内ばっか気ぃ取られてっと中が回んねーぞ?」 ショコラ: 「了解でありますアズにゃん!」 バニラ: 「おっけー、ついでに洗い物もしておく」 アズキ: 「プルメーは茶と一緒にモンシナが出したケーキ持ってってやってくれ」 アズキ: 「モンシナはちょっとレジ頼んでいいか」 アズキ: 「アタシは外行ってナッツをちょっと休憩入れさせてくっからよ」 メイプル: 「はいはい、仰せのままに~」 シナモン: 「はーい、分かりました~」 嘉祥: 「……アズキって、あんなに出来るネコだったっけか」 自分も動きながらしっかりと周りを見つつ指示。 他のネコたちも素直にアズキの指示に従ってる。 いつも通りの気だるげな態度ながら、しっかりと働くアズキの後ろ姿。 時雨: 「アレでも一応長女ですからね。周りを見ることには慣れているのですよ?」 時雨: 「今でこそみんな手がかからなくなりましたが……」 時雨: 「みんなが仔ネコの時は時雨がしっかりと面倒を見てましたしね」 時雨: 「私や兄様がいると怠けてますが、やる時はやれるネコですから。アズキは」 嘉祥: 「そう言えば昔は面倒見良かったもんな」 確かについ去年くらいまではアズキは世話焼きだった気が。 いつの間にかグダグダの座敷ネコになってたと思ってたけど……。 アレは周りの世話を焼く必要がなくなったからだったのか。 時雨: 「もしかしたら、自分が何もしないことで自立を促したのかもですね」 時雨: 「アズキはアズキで頭の良いネコですから」 嘉祥: 「……ネコも色々と考えるんだな」 育ての親の目に感心しながら。 店内で働くアズキの後ろ姿を見る。 バニラ: 「あ、お持ち帰り用のケーキ、カットして小分けにしないと」 ココナツ: 「じゃあ休憩入る前に私がやっとこうか?」 アズキ: 「あ、オイこらナッツ!」 アズキ: 「オメーは不器用なんだから余計なことしなくていいっつってんだろ!」 アズキ: 「とっとと今のうちに休憩入ってこいや!」 ココナツ: 「余計なこと? 今、余計なことって言った?」 ココナツ: 「アズキだって無理して高いところの食器取ろうとするくせに!」 ココナツ: 「ちっちゃいくせに背伸びして、落として割ったらどうするのさ!?」 アズキ: 「あんだテメー? 人の身体的特徴ディスんなって、ご自慢の鈴テストで習わなかったのか?」 ココナツ: 「その前にヒトの言葉遣いすら理解出来てないアズキに言われたくないね」 アズキ: 「テメーやんのか? アタシとやるつもりなんか?」 ココナツ: 「アズキこそやるつもりなの? お店で泣いちゃうけどいいの?」 アズキ: 「上等だこの長毛種が、ワンパンで返り討ちにしてやんぞ?」 ココナツ: 「あははっ、アズキのネコパンチが正面から当たったことなんて一回もないけど?」 アズキ: 「マーオ」 ココナツ: 「マーオ」 アズキ: 「マーーオ!」 ココナツ: 「マーーオ!」 アズキ: 「マーーーーーーーオ!!!」 ココナツ: 「マーーーーーーーーオ!!!!」 アズキ&ココナツ: 『「ギャフベロハギャベバブジョハバゲフムギョボバハ!!!」\n「ギャフベロハギャベバブジョハバゲフムギョボバハ!!!」』 アズキ: 「フブフー!」 ココナツ: 「フォー!」 ココナツ&アズキ: 『「フギャシャムベロクジョフォホ!!」\n「フギャシャムベロクジョフォホ!!」』 時雨: 「こら止めなさい! お客さんの前ですよ!!」 ココナツ&アズキ: 『「だってアズキが!」\n「だってナッツが!」』 時雨: 「だっても何もありません! 喧嘩両成敗です!」 ココナツ&アズキ: 『「にゃぁ~……」\n「にゃぁ~……」』 シナモン: 「昔はナッちゃんもおねーちゃんおねーちゃん言ってたのですけどね~」 メイプル: 「あたしたちの中で一番仲良かったわよね」 ショコラ: 「いつからかすぐケンカばっかりで困っちゃうにゃあ~」 バニラ: 「争いは同じレベルの者同士でしか生まれない。しょーもな」 みんな慣れっこだった。 でも営業中は止めて欲しい。 お客さんも気にしてないみたいだけど。 嘉祥: 「もうちょっと大人になったらなくなるのかな」 時雨: 「アズキもココナツも大人になったから、ですよ」 時雨: 「ネコも人も成長する過程は色々とあるものです」 嘉祥: 「そういうもんか」 時雨: 「ええ、そういうものです」 時雨に断言されるとそんな気になってくる。 これがネコ6匹を育てた母親の貫禄なのかもしれない。 ココナツ: 「ふん。じゃあ休憩入って来るから」 アズキ: 「へーへー。後が詰まってんだからとっとと行って来いやデカブツ」 ココナツ: 「イラッ」 アズキ: 「いてっ! 何すんだテメー!」 ココナツ: 「あ、ごめんごめん。小さくて見えなかったんだ。失礼」 ココナツ&アズキ: 『「フギャシャムベロクジョフォホ!!」\n「フギャシャムベロクジョフォホ!!」』 時雨: 「2匹とも? 本気で怒りますよ?」 ココナツ&アズキ: 『「だってアズキが!」\n「だってナッツが!」』 シナモン: 「今日はまた一段と激しいですね~」 シナモン: 「あっ、は、激しいって言ってもその、違うんだよ? そっちの意味じゃなくてね?」 メイプル: 「シナモンも、仲間だと思われるから止めてくれないかしら?」 ショコラ: 「ご主人さま! ショコラの休憩にココアケーキ焼いて下さい! 焼きたて!」 バニラ: 「ショコラはほんとにマイペースだね。私の愛すべきショコラ」 嘉祥: 「お前ら、とりあえず営業中だからな?」 時雨: 「仕方ないからブログのネタにでもしてあげます」 時雨: 「はいはい、のこったのこったファイトファイトー」 アズキ: 「あ、時雨! ちょ、肖像権の侵害だぞ! 撮るなって!」 ココナツ: 「い、いくら時雨さまでもこんなところはちょっと! にゃあっ!」 そしてその数分後。 ウチの公式ブログのアクセスは一段と跳ね上がっていた。 ……人気って、良く分からないなぁ。 そう思いながら時雨のマネージメント手腕に感心していた。 ココナツ: 「はぁぁ~……」 ココナツ: 「どうしてぼくはいつも上手くいかないんだろうなぁぁぁはぁぁぁ~……」 嘉祥: 「よ、ココナツ。休憩か?」 ココナツ: 「あ、嘉祥さま! す、すみません……!」 嘉祥: 「いや休憩なんだろ? 別に謝ることないけど」 ココナツ: 「い、いや……! その、でも……!」 ココナツ: 「…………すみません」 嘉祥: 「いやだから、別に謝られるようなことはないんだけど……」 耳も尻尾もしょんぼり。 明らかに元気がない。 うーん、何か今日はまた重症だなぁ。 嘉祥: 「俺もちょっと休憩だから紅茶淹れるよ」 嘉祥: 「ココナツも飲むだろ?」 ココナツ: 「あ……は、はい……その、頂いても、いいのでしょうか……?」 ココナツ: 「ぼく――私、全然お店の役に立ててないですし……はぁぁ~……」 ……うーん、重症である。 俺にはいつものジャレ合いに見えたけど。 ネコも色々と大変だなぁ。 そんなことを思いながら蒸らした紅茶をカップに注ぐ。 嘉祥: 「そんな無理するなって。ブログの写真も可愛かったぞ?」 ココナツ: 「あ、いや別にブログの写真は気にしてないんですけど……」 ココナツの前に紅茶を置いて。 俺も正面の椅子に腰を下ろしてカップを口につける。 嘉祥: 「変に背伸びしようとしても失敗するだけだって」 嘉祥: 「ココナツにはココナツの出来ることがあるんだから」 嘉祥: 「もっと等身大でいいんだぞ?」 ココナツ: 「でも、等身大なんて……そんなの余計にダメになっちゃうもん……」 ココナツ: 「ぼくが出来ることなんて、力仕事と掃除と列整理くらいだし……」 ココナツ: 「ほんと、何でぼくはこんな脳筋ネコに育ってしまったんだろうなぁ……はぁぁぁぁ~~~~……」 ……すっかりイジけモードに入ってるなぁ。 ココナツだって一生懸命に働いてくれてるし。 自分で言うほどダメなわけじゃないと思うんだけどな。 こういうのは自分の問題だし、俺が何言ってもだめなんだろうけど。 紅茶をちびちび舐めながら、うなだれてるココナツを眺める。 嘉祥: 「じゃあ午後は一緒に外に出るか?」 ココナツ: 「え、外……ですか?」 ショコラ: 「にゃっはーい♪ やっぱりお外のお散歩はきもちーですね、ご主人さま♪」 バニラ: 「本日はお日柄も良くネコ的に気持ちいい気温。丸くなりたい」 嘉祥: 「散歩じゃなくてデリバリーだからな」 ショコラ: 「でもお届けが終わったらデートみたいなものですにゃー♪」 バニラ: 「そうそうデートみたいなもの」 バニラ: 「だからちょっとだけ丸くなるのも悪く無い」 嘉祥: 「こら、地面で丸くなろうとしない」 バニラ: 「ちっ、ご主人はネコの気持ちがわからない」 デリバリー後。 はしゃぐショコラとバニラをいさめつつ帰路に。 嘉祥: 「人間だって気持ちのいい天気だっていうのはわかるけど」 嘉祥: 「なぁ、ココナツ?」 ココナツ: 「え? あ、はい、そうですね? 丸くなりたい天気ですね」 ……ココナツもそう思うのか。 本当にネコの習性なんだろうか。 何かちょっと意外だった。 ココナツ: 「……その、すみません、嘉祥さま」 ココナツ: 「色々と、気を遣わせてしまって……」 嘉祥: 「別に気を遣ったわけじゃないって」 嘉祥: 「配達の荷物が多かったから人手が欲しかったのは本当だし」 ショコラバニラで両手持ち2個ずつ。 俺とココナツが片手で2個ずつの合計4個のケーキデリバリー。 身体能力的にも体格的にもココナツが適任だったのは間違いない。 嘉祥: 「前にうちのケーキ買って気に入ってくれたらしくてさ」 嘉祥: 「それでパーティで出したいって、こんなに発注してくれたってわけだ」 ココナツ: 「そういうことならあの量も納得です」 嘉祥: 「こんな発注が続いてくれるなら配達用の車でも買うんだけどなー」 ココナツ: 「そしたら私の仕事がまたひとつ減っちゃいますけどね……」 ココナツ: 「あ、それともおでこに『車』とでも書きましょうか?」 ココナツ: 「軽トラックくらいなら負けないですよ、あははははははh」 嘉祥: 「…………」 ……うーん、相変わらず重症だ。 まさかココナツがここまでネガティブになるとは。 外に出たらちょっとは気分転換になるかと思ったけど。 そう上手くはいかないものだなぁ……。 ショコラ: 「あ、ご主人さま! 見て下さい! あそこ!」 バニラ: 「にゃにゃ。あれは」 嘉祥: 「ん? どうした?」 ショコラとバニラの視線の先を追う。 ミルク: 「あー、ネコのおねえちゃんたち!」 ミルク: 「こんにちは、おひさしぶりです。ペコリ」 ショコラ: 「お久しぶりです! ペコリ」 バニラ: 「おおネコちゃん。元気そうで何より。ペコリ」 ミルク: 「おじさんもおひさしぶりです! げんきにしてましたか?」 嘉祥: 「お、おじさん……!?」 嘉祥: 「……まぁ、お前の年から見たら十分おじさんか」 ミルク: 「???」 ……正直、ちょっとショック。 まぁそう見られても仕方ない年齢差だけども……。 ココナツ: 「嘉祥さま、この子は?」 嘉祥: 「だいぶ前に会ったことあるんだけどな」 嘉祥: 「ほら、あそこにあるタコヤキ屋のネコなんだよ」 久しぶりに見る移動屋台を指差す。 ミルク: 「こんにちは! タコヤキやのミルクです!」 ミルク: 「おねえちゃんも、ネコのおねえちゃんなんだね?」 ミルク: 「わたしといっしょだー、にゃんにゃん♪」 ココナツ: 「う、うん、一緒だね? にゃん、にゃん……?」 嘉祥: 「ん、ココナツは子供苦手なのか?」 ココナツ: 「に、苦手っていうか……その、どうしたら良いか分からないって言うか……」 ココナツ: 「その、だって、ぼくがにゃんにゃんとか、似合わないから……」 ココナツ: 「あ、子供は好きなんだよ? 可愛いって思うし……!」 あたふたと焦りながら説明される。 似合わなくもないし、そんなこと気にすることもないのに。 言葉遣いにしても、この背伸びしてる感がココナツなのかも知れないけど。 ショコラ: 「ココちゃんはね、何とショコラたちのお姉ちゃんなんだよ!」 ミルク: 「わぁ、おねえちゃん! おねえちゃんたちのおねえちゃんなんだ! すごい!」 バニラ: 「ウチはお姉ちゃんいっぱいいるけど、一番下のお姉ちゃん」 ミルク: 「いちばんしたのおねえちゃんなんだ! おねえちゃんいっぱいうらやましー!」 ココナツ: 「い、いやぁ、ぼく――私は、そんな大したお姉ちゃんじゃないから……あはは……」 ミルク: 「ううん、おねえちゃんがいるだけでうらやましいよ!」 ミルク: 「だってネコのおねえちゃんがいっぱいいたら、たのしいもん!」 ココナツ: 「ネコちゃん……」 ココナツが表情を曇らせる。 その顔を見て仔ネコが心配そうにココナツを覗き込む。 ミルク: 「……たのしくないの?」 ミルク: 「みんないるのに、たのしくない?」 ココナツ: 「…………」 一瞬、返事に困って。 それからゆっくりと首を左右に小さく動かす。 ココナツ: 「…………そうだね」 ココナツ: 「ネコのお姉ちゃんがたくさんいると、楽しいよ?」 ミルク: 「やっぱりたのしいんだね! よかったぁ!」 ミルク: 「わたしも、おねえちゃんのおねえちゃんたちとも、おはなししてみたいなぁ♪」 ココナツ: 「うん、ソレイユっていうお店に来ればみんないるよ」 ココナツ: 「ちょっと騒がしいけどね、くす」 ミルク: 「うん、いきたい! ネコのおねえちゃんたちとおはなししたい!」 ショコラ: 「うんうん、おいでおいでー!」 バニラ: 「いっぱいサービスしちゃう。スタッフ特権」 嘉祥: 「……元気出たみたいで何よりだな」 わいわいと話す4匹を見て一安心。 ココナツもようやく笑顔を見せてくれたし。 これなら心配要らなさそうだ。 嘉祥: 「そう言えば、今日はご主人さまはどうしたんだ?」 嘉祥: 「お店の中にもいないみたいだけど」 屋台の中を見てももぬけの空。 近場にいる気配もない。 この子がいるってことは近くにはいるんだろうけど……。 ミルク: 「ごしゅじんさまはおかいものだから、わたしがおるすばんしてるの!」 ミルク: 「あのね、わたしね? ごしゅじんさまといっしょに、あたらしいタコヤキかんがえたの!」 ミルク: 「でもね、そのざいりょーがたりなくなっちゃったから」 ミルク: 「だからごしゅじんさまがもどってくるまで、おるすばんしてるの!」 ミルク: 「たべてほしいなぁ♪ おねえちゃんたちにもたべてほしいなぁ♪」 ショコラ: 「やや、ミルクちゃんが考えたのかい!? それはすごいにゃー!」 バニラ: 「おおー。こやつ、見かけによらずやりおる」 ショコラ: 「ご主人さま! お仕事中ですけどこれは聞き逃せませんよ!」 バニラ: 「休憩の前借りということでどうかひとつ……!」 嘉祥: 「分かった分かった」 嘉祥: 「他のみんなには内緒だぞ?」 ショコラ&バニラ: 『「うわーい!」\n「わーい♪」』 嘉祥: 「ココナツも食べるよな?」 ココナツ: 「えっ、あっ、その……」 ココナツ: 「……い、いいんですか? 働かざるもの食うべからず的な……」 嘉祥: 「だから十分働いてるってば」 嘉祥: 「ココナツが晩御飯を食べれなくならなければ、だけど」 ココナツ: 「大丈夫! ぼくタコヤキ大好き! わーい、ありがとー嘉祥さまー!」 ミルク: 「……ん? このあしおとは……」 ミルク: 「ごしゅじんさまだ! かえってきた! ほらあそこ!」 嘉祥: 「あそこって……」 公園の外、道路の向こう側。 こっち側に向かって信号待ちをしてる人がひとり。 嘉祥: 「あんなところの足音がよく聞こえたなー」 ミルク: 「わたしネコだから! ごしゅじんさまのあしおとならとおくでもわかるよ! えへん!」 ミルク: 「じゃあちょっとまっててね? すぐにごしゅじんさまよんでくるから!」 ミルク: 「ごしゅじんさまー! ネコのおねえちゃんたちがまたきてくれたよー!」 嬉しそうな大声でそう叫びながら。 ご主人さまのところへ一直線に走っていく。 周りのことに目もくれずに。 道路向かいのご主人さまの下へ。 ――赤信号にも、気が付かずに。 ショコラ: 「ミルクちゃん! 赤信号だよ、危ないよ!!」 バニラ: 「ミルク止まって! 車が来て――」 ミルク: 「え、くるまって――」 ココナツ: 「……大丈夫? どこも痛くない?」 一瞬の静寂に。 ココナツの優しい声が響く。 ミルク: 「へ……あ……? お……おねえ、ちゃん……?」 ココナツ: 「危ないよ? 道路に急に飛び出したりしたら」 ココナツ: 「もうちょっとで、ご主人さまをすごく、すごーく悲しませるところだったよ?」 歩道の上、ココナツに抱えられながら。 仔ネコの瞳に涙が浮かんで。 その顔が少しずつ歪んでいく。 ミルク: 「おねえ、ちゃん……あ……あぁ……」 ミルク: 「ふ、ふえぇ……! ふえぇぇぇっ……!」 ミルク: 「ひぐっ……! お、おねぇ……ちゃぁん……!!」 ミルク: 「うぇぇぇぇーー!! わぁぁぁーーーん!!」 ミルク: 「おねえちゃーん! わぁぁぁーーーん!!」 ココナツ: 「怖かったね、怖かったね。よしよし、よしよし」 ココナツ: 「もう大丈夫だから、泣かないの。もう大丈夫だから」 まさに小さな子をあやすみたいに。 ココナツが優しい声で囁きながら。 ミルクの体をぎゅっと抱きしめてあげていた。 ミルク: 「わぁぁぁーん! ふえぇぇぇー!」 ミルク: 「ごめんなさい! ごめんなさいぃ! うわぁぁーん!!」 ココナツ: 「うん、もう大丈夫、大丈夫だよ? よしよし」 ミルク: 「うわぁぁぁーん! わぁぁぁーん!!」 嘉祥: 「ココナツ! 大丈夫か!?」 ココナツ: 「はい、ミルクにかすり傷ひとつないです」 嘉祥: 「バカ、お前もだ!!」 ココナツ: 「え? わ、私……?」 嘉祥: 「あのタイミングで助けに飛び出すとか、ほんと無茶しやがって……!!」 嘉祥: 「ココナツも一緒に事故にあっててもおかしくなかったんだぞ……!?」 ココナツ: 「嘉祥さま……」 ココナツ: 「……はい、すみませんでした」 ココナツ: 「危ないと思ったら体が動いてしまっていたので……」 嘉祥: 「……いや、ごめん、俺もちょっと混乱してて言い方がキツかった」 嘉祥: 「でも、万が一のことがあったら時雨が悲しむし……」 嘉祥: 「それに俺にとってもココナツは大事な家族なんだから」 嘉祥: 「だから、あんまり無茶はしないでくれよ?」 上手くまとまらないまま。 ココナツに思ったままの言葉を投げる。 ココナツ: 「……はい。その言葉、ちゃんと覚えておきます」 ココナツも目をそらすことなく頷いてくれる。 店主: 「ミルク! あぁミルク……! 大丈夫!? ほんとに大丈夫!?」 ミルク: 「わーん、ごしゅじんさまー! だいじょうぶ、おねえちゃんのおかげでだいじょうぶだよー! わーん!!」 店主: 「ありがとう、本当にありがとう……!」 店主: 「本当に何とお礼を言ったらいいか……!」 ココナツ: 「あ、そんなぼくなんか、お礼なんて言われるほどじゃ……」 店主: 「言葉なんかじゃ表せないけど、でもありがとう……!」 店主: 「大事な娘がいなくなってたらって思うと、ほんとにあぁっ……!」 自分の娘代わりと言ってたネコを抱きしめながら。 何度も何度もココナツに向かってお礼を口にする。 店主: 「キミの名前は?」 ココナツ: 「あ、コ、ココナツです……」 店主: 「ココナツちゃん、本当にありがとう。この恩は絶対に忘れないよ」 店主: 「キミがいなかったら、うちの娘はいなくなってたかも知れないんだ」 店主: 「本当に、ほんっとうにありがとう……!」 ココナツ: 「…………」 どうしたらいいか分からずに困惑するココナツの頭を撫でる。 嘉祥: 「ココナツがやったのは、胸を張っていい立派なことだぞ」 嘉祥: 「ココナツじゃなきゃ助けられなかったんだから」 ココナツ: 「嘉祥、さま……」 ココナツ: 「…………」 ココナツ: 「……はい、ありがとう……ございます……」 口唇をきゅっと噛んで。 助けたココナツの方が助けられたみたいに小さく頷く。 俺ももう一度ココナツの頭を撫でた。 店主: 「お礼なんてタコヤキくらいしかごちそう出来ないけど……」 店主: 「良かったら、食べてってくれるかい?」 ココナツ: 「嘉祥さま……?」 嘉祥: 「もちろん、ごちそうになろうか」 ココナツ: 「はい、じゃあ遠慮無くごちそうになります♪」 何だか泣きそうな笑顔で。 でも今日一番の笑顔でしっかりと頷いて応えた。 ショコラ&バニラ&ココナツ: 『「ごちそうさまでした!」\n「ごちそうさまでした」\n「ごちそうさまでした♪」』 ショコラ: 「ふぁー、めっちゃ満足ー♪ もうおなかいっぱいだにゃー♪」 バニラ: 「ミルクの作ったタコヤキ、カリカリでめっちゃ美味しかった」 ココナツ: 「こんなにお腹いっぱいタコヤキ食べれる日が来るなんて……♪」 ココナツ: 「まだまだ世の中にはぼくの知らない幸せがたくさんだなぁ……♪」 嘉祥: 「すみません、買ってきた食材が無くなるまで食べちゃって……」 満足そうにベンチで伸びてる3匹を横目に店主に頭を下げる。 店主: 「あっはっは、いいんだよこんな程度」 店主: 「うちのミルクの命を助けてもらったことに比べたらまだまだ足りないくらいさね」 ミルク: 「わたしも! こんなにたくさんたべてもらえてうれしい!」 嘉祥: 「ああ、美味しかったよ。ありがとな」 ミルク: 「にゃー♪」 頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。 こういう反応はどこのネコも同じなんだなぁ。 ショコラ: 「そうだ、ご主人さま! カード! ショップカード!」 バニラ: 「今度はウチに招待しよう。ケーキ食べ放題」 ココナツ: 「それいいね、たくさんサービスし返してあげたいなぁ♪」 嘉祥: 「そうだな、じゃあ今度はぜひウチの店に」 ミルク: 「わぁ! ありがとうおじさん♪」 店主: 「おバカ、どう見てもお兄ちゃんだろが」 ミルク: 「え、そうなんだごめんなさい! ありがとうおにいちゃん!」 ペコリと頭を下げられる。 こう、無邪気に言われるとなぁ……。 無理矢理言わせた感が半端ない。 まぁどっちでもいいんだけども。 嘉祥: 「じゃあ俺たちはそろそろこれで」 店主: 「ああ、近いうちに寄らせてもらうよ。本当にありがとね」 ミルク: 「ココナツおねえちゃん、ほんとのほんとにありがとう!」 ココナツ: 「ミルクが無事で本当に何よりだったよ」 ココナツ: 「いい、ミルク? 飼いネコたるもの、ご主人さまを悲しませるようなことは、絶対にしちゃダメだよ?」 ミルク: 「うん、もうしない! ぜったい! やくそくする!」 ミルクが小さな小指を差し出す。 ココナツも小指を絡めてきゅっと握る。 ココナツ: 「うん、約束。いい子だ」 ショコラ: 「ショコラも! ショコラも約束する! 指切り!」 バニラ: 「嘘ついたらハンドミキサーでぐりぐりの刑~♪」 嘉祥: 「店の備品をそういうことに使わない」 地味に痛そう。 電源を入れるのか入れないのかにもよるけど。 あとバニラは冗談とそうじゃない時の差が分かりづらい。未だに。 店主: 「本当にありがとね。じゃあまた、近い内に」 嘉祥: 「はい、では失礼します」 ミルク: 「ばいばーい! おねえちゃんたち、またねー!」 小さな手を精一杯に振るミルク。 俺たちも何度も振り返りながらその場を後にした。 ココナツ: 「……嘉祥さま」 嘉祥: 「どうした?」 ココナツ: 「本当にソレイユに来てくれたらいいですね」 嘉祥: 「来てくれるだろ」 嘉祥: 「その時はココナツがテーブル担当だからな?」 ココナツ: 「はい、お仕事ちゃんと出来るように頑張ります」 最後にココナツがハッキリとした声で頷く。 その笑顔の中に陰りは見えない。 ……色々あったけど、ココナツが元気になってくれて良かったな。 そんな一番の収穫を胸に。 3匹のネコたちと一緒に帰路についた。 時雨: 「随分と、遅いお帰りでしたね?」 嘉祥: 「あ、いや……その、すみません……」 時雨が仁王立ちで出迎えてくれていた。 ショコラ: 「ち、違うんだよ時雨ちゃん! えーっと、その、えっと、そのね!?」 ショコラ: 「そう! ご主人さまが途中でおなか痛くなっちゃって!」 バニラ: 「私たちもご主人を励ますので必死だった! ね、ココナツ?」 ココナツ: 「えっ!? あ、う、うん! そ、そう、そんなかんじ……!?」 アズキ: 「オメーら、前歯にあおのりついてんぞ。全員」 ショコラ: 「ふぎゃー! 違う、違うんですにゃ!!」 ショコラ: 「これは決してタコヤキってたとかそういうことじゃないのですにゃ!!」 バニラ: 「こ、これはえっと、その! カっ……カビ! 青カビにゃの!!」 バニラ: 「ブルーチーズ的なアレ! ね、ココナツ!?」 ココナツ: 「かっ、カビ!? え、うそっ!?」 ココナツ: 「そんなとんでもないパス出されても……! えっと、えっと……!!」 メイプル: 「きちゃないわねぇ、ほんと品の無い妹たちだわ~」 シナモン: 「とっても雑な言い訳ですねぇ? 嫌いじゃないですけれども~」 アズキ: 「いーからとっとと歯磨いて来い、バカネコシスターズが」 バカネコシスターズ: 『「了解であります!」\n「了解であります!」\n「了解であります!」』 時雨: 「まぁ兄様が付いていたわけですし、中は私とアズキがいましたし」 時雨: 「別にさしたる問題はないのですけどね」 嘉祥: 「いやまぁ色々とあってな、すまん」 時雨: 「えっ……! 兄様が謝罪の証として熱い接吻をして下さる……!?」 時雨: 「そ、そんなことまでされたら、女としても妹としても何も言えなくなっちゃいます……♪」 時雨: 「では、どうぞ……ん……♪」 めっちゃ強引にキスを迫ってくる我が妹。 兄から見てもブラコンをこじらせてるよなぁうちの妹は。 でもちょっとはサボってたのも事実だから何とも……。 嘉祥: 「……ま、兄妹だしな」 時雨: 「……え? 兄様、ほんとに――」 ちゅ。 時雨の頬に軽く口唇を当てる。 時雨: 「ああぁ……っっっ……!! あっ、ああぁぁ……っっっ…………!!!!!」 時雨: 「に、ににににっっ……!!! に、兄様がっ……!? ががが、がっ……!!!?」 時雨: 「あばっあばばばっ……!! あばっあばばばばばっっばああばあばばばああばあばばばばば!!!!!!」 メイプル: 「ちょ、時雨っ!? 何その鼻血の量!? ちょっとヒくんだけど!?」 シナモン: 「し、時雨ちゃんが! 時雨ちゃんが血の海に横たわってるよ~!」 シナモン: 「しっかり!! しっかり意識を保って!!」 メイプル: 「ちょっと嘉祥! あんた実の妹に何てことするのよ!? 殺す気!?」 シナモン: 「そ、そうですよ! 時雨ちゃんが極楽にイきっぱなしになっちゃってるじゃないですかぁ~! 羨ましい~!」 嘉祥: 「え? 昔から時雨にはよくあることなんだけど……」 水無月家では年に2,3回くらいの頻度の。 血の海まで行くことは稀だけど……。 時雨: 「だ、大丈夫、です……でも、ちょっと、余韻に浸りたいので……♪」 時雨: 「しばらく、このままで……放置、願いますん……♪」 時雨: 「うふふふはははうふふ……♪ ふふふあはははははああはははっっはっはははっはははは~……♪」 メイプル: 「うわ、流石にちょっとヒくわ……」 メイプル: 「ブラコンもこじらせるとこの域まで逝けるのね、怖いわ~……」 シナモン: 「でも分かる、分かるよ時雨ちゃん……!」 シナモン: 「余韻に浸るのは、終わった後の大事な愉しみだもんねっ……!」 シナモン: 「嘉祥さんっ! わたし、ちょっと看板をクローズにしてきますからっ!」 嘉祥: 「まぁ……じゃあ、とりあえず頼む」 この状態じゃ営業もままならないしなぁ。 ネコ勢+時雨が全滅してるし。 血の海の掃除しないといけないし。 俺もサボってた引け目があるから何とも言えない。 嘉祥: 「時雨も、とりあえず大丈夫になったら言ってくれ」 時雨: 「はぁ~い♪ もうちょっと、もうちょっとお待ち下さいませ兄様ぁ~♪」 アズキ: 「…………」 嘉祥: 「おう、アズキ」 嘉祥: 「もう営業再開出来そうなのか?」 アズキ: 「ああいや、それはもうちょっと掛かりそうなんだけどよ……」 アズキ: 「……その、うん……まぁ……」 何かを言いたそうにモジモジ。 アズキがこんな歯切れ悪いなんて珍しい。 嘉祥: 「どうした? 何か言いづらいことか?」 アズキ: 「いや、言いづらいってほどじゃねーんだけどさ……」 アズキ: 「…………」 アズキ: 「……一応、礼言っとこうと思ってよ」 嘉祥: 「……礼?」 ……アズキに礼を言われるようなことしたっけ? 逆にサボって迷惑掛けたと思ってるけど……。 でもいつもなら率先して、 『上がサボってたんならアタシもサボって文句ないよな?』 とか言いそうなもんだけど、ずっと黙ってたよなそう言えば。 何だか良くわからないままアズキの言葉を待つ。 アズキ: 「まぁ、その……ナッツのことなんだけどよ」 嘉祥: 「ココナツ? どうかしたか?」 アズキ: 「いや、ちょっと昼間にナッツのアホと揉めてたろ?」 アズキ: 「アレが思ったよりキいちまってたみたいだったから、気になってたんだよ」 バツが悪そうに頬を掻きながら。 落ち着きなく視線を迷わせて続ける。 アズキ: 「……わざわざ気を回してナッツを外に連れ出してくれたんだろ?」 アズキ: 「何言ったか知らねーけど、立ち直って帰ってきたみたいだったからよ」 アズキ: 「だから一応、礼を言っとこうと思ってさ」 申し訳無さそうに上目遣いで俺を見る。 ……アズキはそんなこと気にしてたのか。 いやそもそも仕事が出来るってことは、細かく気がつくってことで。 時雨: 「アレでも一応長女ですからね。周りを見ることには慣れてるのですよ?」 ……時雨もそう言ってたしな。 ぶっきらぼうに見えて実は気を遣ってるのかも知れない。 アズキ: 「まぁ、尻拭いさせちまって悪かったなってこった」 アズキ: 「ほんっとナッツのアホは手のかかるネコだよなー。ったく」 照れ隠しなのか大げさに体を動かす。 嘉祥: 「ココナツだって水無月家の大事な家族だからな」 嘉祥: 「元気がなければ気になるのは普通のことだろ」 嘉祥: 「それに、こっちこそアズキにお礼を言わないとだしな」 嘉祥: 「最近はアズキが店を良く回してくれるから助かってるよ、ありがとな」 アズキ: 「ンなもん、こっちこそ仕事なんだから礼言われるこっちゃねーよ」 アズキ: 「感謝してるなら時給に反映させてくれや」 サラっと当然のように口にする。 アズキなりに仕事に責任感を持ってくれてるのか。 普段適当にやってても、だからやることやってくれてるんだな。 本当にさり気なく気遣ってくれてるのが嬉しい。 アズキ: 「何だよ、何ニヤニヤしてんだ?」 嘉祥: 「いや別に」 嘉祥: 「じゃあまあ、お互い様ってことで」 アズキ: 「そーだな、そんな感じってことで」 メイプル: 「ちょっと嘉祥? 時雨を病院に連れてってもらえる?」 嘉祥: 「は? 病院って……」 シナモン: 「血が、血が止まらないの~! 鼻クリップで押さえてるのに~!」 時雨: 「あぁ、兄様……時雨は、時雨は果報者にございました……」 時雨: 「来世もまた、兄様の妹に……」 時雨: 「いや、結婚出来る義妹……いや、もういっそ恋人に、ふふふ……ガクッ」 シナモン: 「時雨ちゃーん、しっかり!! しっかりしてぇ~!!」 シナモン: 「早く、早くタクシーを~!!」 こうして我がソレイユは思わぬ臨時休業となった。 ちなみに時雨はすぐにケロッと回復していた。 ショコラ: 「ご主人さま?」 ショコラ: 「ちょっとお話があります。よろしいでしょうか」 嘉祥: 「何だよ改まって」 嘉祥: 「晩御飯ならもうすぐ出来るから待ってろって」 ショコラ: 「うわーい! 今日の御飯はなんですか!?」 ショコラ: 「ショコラの大好きなパフェですか!?」 嘉祥: 「晩御飯だって言ってんだろが」 ショコラ: 「違います! そうじゃないんですってば!」 ショコラ: 「真面目にお話聞いて下さい! にゃー!!」 嘉祥: 「落ち着け落ち着け」 嘉祥: 「で、どうしたんだ?」 ショコラ: 「ここ最近ショコラは思ってたんです」 ショコラ: 「ご主人さまは誰のご主人さまか分かってますか?」 嘉祥: 「バニラ」 ショコラ: 「ふぎゃー! そういう意地悪なご主人さまは嫌いです! にゃにゃにゃー!! にゃー!!!!」 バニラ: 「ショコラは何でも真に受けるんだからダメだよご主人」 嘉祥: 「いや、ついな」 ショコラ: 「何でバニラがご主人さま派なの! バニラはショコラの味方でしょー!」 バニラ: 「もちろん。ショコラ愛してる。喉元ごろごろごろー」 ショコラ: 「ごろごろごろごろ~~~♪」 嘉祥: 「まぁ落ち着いたところで改めて」 嘉祥: 「で、どうしたんだ。藪から棒に」 バニラ: 「何か最近、ご主人が私たちよりも他のお姉ちゃんたちと仲良いっぽい」 バニラ: 「ショコラはそれが気に入らないと主張してるわけです」 ショコラ: 「そう! さすがはバニラ! ショコラのこと良くわかってる! ふんす!」 嘉祥: 「別に他のネコたちと仲良いってこともないだろ」 ショコラ: 「はー? 聞きましたバニラさん? 今のご主人さまの言葉!」 バニラ: 「浮気した男のテンプレっぽいよね」 バニラ: 「私も概ねショコラに同意」 バニラ: 「多数決によりご主人が悪いこととなりました。終了」 嘉祥: 「終了て」 いやまぁ店には他のネコたちや時雨が増えたわけで。 今までよりはショコラバニラ以外と話す時間が増えたけども。 別に浮気とかそういうことじゃないけどなぁ。 ショコラ: 「別にみんなと仲良くしてるのはいいんですよ?」 ショコラ: 「みんな仲良しはショコラも大好きですし」 バニラ: 「でももっと私たちを構ってくれてもいいと思う」 バニラ: 「釣ったネコにエサをやらないとか」 バニラ: 「ネコは気ままだけど、そういうのは嫌い」 2匹して頬を膨らまして抗議してくる。 この面倒くささが可愛いところでもあるんだけども。 嘉祥: 「分かった分かったって」 嘉祥: 「じゃあどうすればいい?」 ショコラ: 「ショコラはご主人さまが構ってくれれば満足なのですにゃー♪」 バニラ: 「特に何も考えてないところがさすがはショコラ」 バニラ: 「チョロ過ぎるとは思うけどそこがまたいい」 嘉祥: 「まぁ、そうだなぁ……」 嘉祥: 「……じゃあ、たまには」 リビングのソファに座って、ぽんぽんと太ももを叩く。 ショコラ&バニラ: 『「にゃにゃ?」\n「にゃにゃ?」』 ショコラ: 「ごろごろごろ~♪ ご主人さまの耳掃除大好き~♪」 ショコラ: 「久しぶり過ぎてテンション上がっちゃいますにゃ~♪」 バニラ: 「これぞ飼い主のつとめだね?」 バニラ: 「私もそれなりにウキウキしてる、ごろごろごろ~♪」 両ももの上で転がる2匹の頭を撫でる。 嘉祥: 「喜ぶのはいいけど動くなってば。危ないぞ」 嘉祥: 「じゃあまずは内側の拭き掃除からするからな」 ショコラ: 「はーい♪ めっちゃ注文するから大丈夫でーす♪」 バニラ: 「覚悟などとうに出来てる。いざレッツ耳掃除」 嘉祥: 「くすぐったいとか痛いとかあれば言えよー?」 2匹の尖った耳をめくって。 湿らせたコットンを優しく当てる。 ショコラ: 「にゃはははっ! ご主人さまぁ、くすぐったいですにゃ~♪」 ショコラ: 「でもこのくらいが気持ちいいとの絶妙なところでもありますにゃ~♪」 バニラ: 「優しすぎてこそばゆい……でも嫌いじゃない……♪」 バニラ: 「さすがは私たちのご主人……手つきがエロいにゃぁ……♪」 嘉祥: 「エロいとか関係ないだろ」 久しぶりの耳掃除。 手順を思い出すように丁寧に拭いていく。 とは言っても本物の猫とは違うし。 毎日風呂に入ってるから耳殻は汚れてないけど。 嘉祥: 「ほら、逆側も拭くぞ?」 ショコラ: 「いいですにゃぁ~これぞ恋ネコっぽくていいですにゃぁ♪」 バニラ: 「なかなか愛されてる度が高いね。くるしゅうない」 嘉祥: 「それはようございました」 嘉祥: 「よし、じゃあ次は耳の中な」 嘉祥: 「動くなよ?」 コットンを綿棒に持ち替えて。 今度は耳の奥をほじほじ。 ショコラ: 「ん、あっ……は、にゃあぁっ……や、にゃぁっ……!」 ショコラ: 「ご主人さま……そんな、奥っ……ぐりぐりしちゃぁ……にゃ、はぁぁっ……!」 バニラ: 「ん……はぁ、んん……ご主人、まじテクニシャン……!」 バニラ: 「この慣れた手つきが……んっ、にゃ……えっちパティシエ……んんぅっ……!」 嘉祥: 「ケーキ作りと関係ないだろ」 褒められてるんだか煽られてるんだか。 紛らわしい声を出す2匹を放ってほじほじを続ける。 嘉祥: 「もっと奥まで入れるぞ?」 ショコラ: 「にゃぁ~ん♪ そんな勇ましいこと言われちゃうにゃんてぇ~♪」 ショコラ: 「おく、ショコラおくされるの大好きですにゃぁ~……♪」 バニラ: 「ご主人、強気攻め……でも嫌いじゃない……♪」 嘉祥: 「はいはい、動くなよ~」 綿棒をちょいちょい取り変えながら。 手早く耳の中の掃除を続けていく。 ショコラ: 「はぁぁ~っ……♪ ご主人さまぁ~……とろける~……♪」 ショコラ: 「まるで、マタタビくらいいい気分ににゃって来ましたぁ~……♪」 バニラ: 「にゃふぅ……♪ ごくらく、ごくらくにゃぁ~……♪」 バニラ: 「もはやよだれ規制も不可能……じゅるる……♪」 嘉祥: 「よだれくらい我慢なさいよ」 面白い顔で喜ぶなぁ。 まぁどうであれ、2匹が喜んでるならいいんだけども。 ショコラ: 「このまま……ご主人さまの耳かきでトロけ殺されても本望ですにゃ~……♪」 バニラ: 「延長で……無制限延長でお願いしますにゃ~……♪」 嘉祥: 「中耳炎になるからダメ」 ショコラ: 「はぁはぁ……♪ そんなご無体なぁ~……♪」 バニラ: 「そんな焦らしプレイもテクニシャン~……♪」 嘉祥: 「もはや何でもアリだなお前ら」 ショコラ: 「ご主人さまへの愛ゆえにですにゃ~……♪」 バニラ: 「愛ゆえにですにゃ~……♪」 嘉祥: 「はいはい、分かりましたよ」 ショコラ: 「Zzz……Zzz……」 バニラ: 「Zzz……Zzz……」 嘉祥: 「……完全に寝てるな」 幸せそうな2匹の寝顔を撫でる。 ショコラもバニラも喜んでくれてたし。 たまにはこういう時間も大事にしないとな。 せっかく俺に付いて来てくれて。 こんなに慕ってくれてるんだから。 俺もそれに応えてあげたいと思うし。 2匹を起こさないように立ち上がる。 嘉祥: 「……とりあえず、風呂にでも入るか」 ショコラとバニラのよだれを拭いてあげつつ。 よだれまみれのズボンを脱ぐことにした。 嘉祥: 「ふぅ……やっぱり風呂はいいなぁ……」 湯船に浸かって温まった吐息を吐き出しながら。 ざぶざぶと湯船のお湯を顔に掛けて天井を見上げる。 嘉祥: 「……今日も色々とあったな」 アズキが頑張ってくれてたり、店のことを考えてくれてたり。 ココナツが事故を防いだり、自信を取り戻したり。 本当に色々とあるもんだ。 今日あったことを思い出しながら。 ぐーっと湯船の中で体を伸ばす。 ショコラ: 「ご主人さまー? お風呂ですかー?」 バニラ: 「あ、ご主人の服発見。お風呂にいる」 嘉祥: 「おー、お前ら寝てたから先に入らせてもらってるわ」 嘉祥: 「もうちょっとで出るから待っててくれ」 すりガラスのドアの向こうの影に向かってそう伝える。 2匹のシルエットが何かを話してるように動く。 そしてショコラとバニラが頷いてこっちを向く。 ショコラ: 「じゃあショコラたちも一緒に入っていいですか?」 嘉祥: 「へ? 一緒に?」 バニラ: 「というか一緒に入る。もう服脱いだ。寒い」 嘉祥: 「まだ脱いでないだろ。それくらい見えてるし」 バニラ: 「ちっ、ほんとご主人は細かい……」 ショコラ: 「じゃあとりあえず脱いじゃえばいいんだよ!」 バニラ: 「既成事実ってやつだね。ショコラほんと切れ者」 するするとシルエットが肌色になる。 嘉祥: 「おいおい……」 ショコラ: 「じゃあ失礼しまーす♪」 バニラ: 「失礼しますー」 そんな声と一緒に風呂場のドアが開く。