nekopara-scripts/vol1/jp/01_02.txt
2021-02-14 20:13:26 -08:00

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Plaintext

ショコラ: 「わーい! ご主人さまー、ご主人さまー!!」
ショコラ: 「見て、見てくださぁーーーーいっ!!!」
ショコラ: 「ふわぁぁ~っ! この制服すっごくいいです! めっちゃ可愛いですよー!!」
ショコラ: 「感激っ♪ ショコラ感激ですよ、ご主人さまっ♪」
バニラ: 「ショコラ、超可愛い……! スカートひらってやって、ひらって」
ショコラ: 「こう? こう? ひらっ、ひらっ♪」
バニラ: 「あ、ご主人がショコラのことエロい目で見てる」
ショコラ: 「やーん、ご主人さまのえっちー♪」
嘉祥: 「アホか」
届いたばかりの制服で漫才をひけらかすネコたち。
2匹揃って背中を向けたり回ったりで大忙し。
ショコラ: 「ご主人さま! ご主人さまのお店の制服、ショコラ似合ってますか?」
嘉祥: 「ああ、良く似合ってると思う」
嘉祥: 「急ごしらえだけど、良いのが見つかって良かったな」
バニラ: 「うんうん、良かった良かった。選んだのは私だけど」
嘉祥: 「ああ、バニラも良く似合ってるぞ。これからよろしく頼むな?」
バニラ: 「……まぁ出来る範囲で頑張る」
ショコラ: 「うわーい、ご主人さまにも褒めてもらっちゃったねー♪」
ショコラ: 「明日から一緒に看板ネコとして頑張ろうね、バニラー!」
バニラ: 「せっかくご主人が用意してくれたし。適度に頑張る」
ショコラ: 「もー素直じゃないんだからー♪」
ショコラ: 「バニラもひらってサービスしちゃいなよーほらほらー♪」
バニラ: 「にゃぁっ……私はそういうことするネコじゃな、あ、ちょ、ショコラ……!」
バニラ: 「ちょ、だめだって、にゃっ!?」
バニラ: 「そ、それスカートじゃな、にゃ、にゃあぁぁぁっ!?」
嘉祥: 「元気だなぁウチのネコたちは」
ジャレている二匹を横目にトレーやら食器やらを拭き掃除。
嘉祥: 「……もう明日から開店するんだよな」
もう仕込み用の材料も冷蔵庫に入ってるし、店を飾る観葉植物も届いている。
口に出せば実感が湧くかと思っても当然そんなこともない。
嘉祥: 「形も揃って時間は容赦なく過ぎてくけど……」
今朝届いたばかりのショップカードに手を伸ばす。
ショコラ: 「にゃにゃにゃっ!? ご主人さま、なんですか! それはなんですかー!」
バニラ: 「おお。これはもしや、ショップカードというやつでは」
ショコラ: 「すごい、すごいですご主人さま! お店の住所とか電話番号まで書いてますよー!」
バニラ: 「お店の情報がもろバレの一枚」
バニラ: 「個人情報保護にうるさい時代に危機感のない」
嘉祥: 「いやショップカードってそういうもんだから」
個人情報保護とか知ってるのにショップカードは知らないのか。
まぁ確かに変な営業とか来たら面倒だけども。
ショコラ: 「おめでとうございます、おめでとうございますご主人さま!」
ショコラ: 「こんなに素敵なショップカードなら、あっという間になくなって満員御礼ですね♪」
嘉祥: 「ああ、そう上手く行くといいけどな」
まるでもう夢が叶ったかのようにはしゃぐショコラの頭を撫でる。
これだけ素直に喜んでくれると、それだけで上手く行きそうな気もして来る。
……やっぱり誰かが居てくれるっていうのは心強いな。
改めてそんなことを思ったりしてしまう。
バニラ: 「…………(じー)」
嘉祥: 「バニラ、どうした?」
バニラ: 「これ、1枚欲しい。もらってもいい?」
嘉祥: 「ああ、それは構わないけど……」
バニラがこういう物を欲しがるなんて珍しい。
ネコでも記念に持ってたいとか思うものなんだな。
何百枚とあるものだから全然構わないんだけども。
ショコラ: 「はい、はーい! ショコラも! ショコラも欲しいですご主人さま!」
嘉祥: 「ああ、たくさん作ったし好きなだけもってっていいぞ」
嘉祥: 「って、あ! こら、全部はダメだって!」
嘉祥: 「好きなだけってそういう意味じゃない!」
箱ごと持って行こうとするショコラを見て。
日本語って難しいなと思ったりした。
ショコラ: 「…………(じー)」
バニラ: 「…………(じー)」
ショコラ: 「…………にゃっ(ぱしっ)」
バニラ: 「…………にゃっ(ぱしっ)」
ショコラ: 「…………(じー)」
バニラ: 「…………(じー)」
ショコラ: 「にゃっ(ぱしっ)」
バニラ: 「にゃっ(ぱしっ)」
ショコラ: 「にゃっ!(ぱしっ)」
バニラ: 「にゃっ!(ぱしっ)」
ショコラ&バニラ: 『「にゃにゃー! にゃにゃにゃにゃにゃーっ!!(ぱしっ、ぱしっ)」』
嘉祥: 「……やっぱりネコなんだなぁ」
普通の猫用のオモチャに夢中になってる二匹を見て実感。
まぁ『ご自由に』って書いてあるし、とりあえずほっとこう。
嘉祥: 「えーと、ネコ関係の本はどこだろうな……」
店内を見渡しているとエプロンを付けた店員さんが近寄って来てくれる。
店員: 「何かお探しですか?」
嘉祥: 「ネコの飼い方の本とかってありますか? 人型ネコの」
店員: 「はい、もちろんございますよ。こちらになります」
嘉祥: 「……ずいぶんたくさんあるんですね、ネコの本って」
案内された先にぎっしりのネコ関連の本を見て思わずうなる。
『ネコの気持ち』『ネコ教育』『ネコまっしぐら……ない!』
最後のは良くわからないけど、とにかくたくさんの本がある。
店員: 「この手の本は多いですけど、でも結局ネコそれぞれなんですよね」
店員: 「人型ネコは言葉でコミュニケーションが取れますし、ちゃんと話をしてれば大丈夫ですけどね」
店員: 「あちらのネコちゃんたちのご主人さまですか?」
嘉祥: 「ああ、いえ、飼い主は妹で――」
嘉祥: 「……いや。はい、あの二匹の飼い主です。ちょっとネコについてちゃんと勉強しようと思って」
店員: 「そうでしたか。ではオススメの本出しますので少々お待ちくださいね」
改まって飼い主です、って言うのも気恥ずかしいもんだな。
でもそう言えることが嬉しかったりもするし。
……我ながら面倒な性格してるなぁ。
未だ必死にパシパシしてる二匹を遠目に見つつ苦笑いを浮かべる。
……てかまだやってたのかあいつら。
店員: 「お待たせしました。こちらの本なんてどうでしょうか?」
戻ってきた店員さんが一冊の本を差し出してくれる。
『1歳からの成ネコ本』
店員: 「もうあれだけ手が掛からないなら、飼い方というよりはネコの特性を学ばれた方がいいと思いまして」
店員: 「今さら言葉とかトイレ、お風呂の教え方なんて必要ないと思いますし」
店員: 「これから成ネコになるにつれて、発情期とか身体的な成長も現れたりしますから」
嘉祥: 「そうですね、確かに」
パラパラとページをめくってみる。
成長に合わせた食生活。発情期。安定期。
ネコの教育。ネコとの接し方。ネコの資格。学校。
はたまたネコの競技会のことまで網羅されている。
店員: 「人生のパートナーとして、仕事のパートナーとして、趣味のパートナーとして……」
店員: 「飼い主さんとネコちゃんとの関係も家族によって様々ですからね」
店員: 「専門的な本には劣りますけども、最初の入門編としてはこちらが良いかなと思います」
店員: 「でもアレだけしっかりしたネコちゃんたちですし……」
店員: 「人間と同じように話をしてあげれば大丈夫だとも思いますけどね」
嘉祥: 「……そうですね。俺よりもしっかりしてますから」
ついこの間にショコラとバニラに言い負かされたことを思い出す。
……俺も飼い主として、ちゃんと勉強しないとな。
そう思い直して、持っていた本を店員さんへと手渡す。
嘉祥: 「じゃあこちら、頂けますか?」
店員: 「はい、ありがとうございます」
店員: 「あ、あと。もうひとつなのですが……」
嘉祥: 「ん? どうかしました?」
店員: 「ネコちゃんたちが大変気に入っていたようですが、あちらはどうなさいますか?」
嘉祥: 「あちらって……」
ショコラ: 「はっ、はっ、はっ、はっ……!!」
バニラ: 「ひゅー、ひゅー、ひゅー……!!」
ショコラ: 「しぬ……このままじゃ、ショコラしんでしまいます……! はっ、はっ、はっ……!!」
バニラ: 「わたしも、もう……三途の川がみえる……ひゅー、ひゅー……」
バニラ: 「ここからさきは、わたしの、しかばねをのりこえて……げほっ、げほっ、げほっ……!!」
ショコラ: 「ご、ごしゅじんさまには、ショコラはさいごまでりっぱなネコであったと……!」
ショコラ: 「そうつたえて……はっ、はっ、はっ……!!」
嘉祥: 「……じゃあ、あれも下さい。あと何か飲み物も」
店員: 「お買い上げありがとうございまーす」
……本当にあの二匹は頭がいいんだろうか。
バテバテで死にそうになって転がってる二匹を見て、急に不安になって来ていた。
ショコラ: 「ご、ごめんなさいご主人さま……ついつい夢中になっちゃいまして……」
バニラ: 「いくら常識を身につけても、ネコの習性には逆らえない……」
嘉祥: 「まぁ部屋に吊るしとくから好きなだけ遊んでくれ」
ビニール袋からはみ出てるオモチャをチラチラと目で追うネコたち。
やっぱり遺伝子レベルではネコなんだなぁ。
店員さんも『そんなもんですよ』って言ってたし。
バニラ: 「ねぇご主人。今日はドラッグストア寄らない?」
嘉祥: 「ん? 寄るつもりはなかったけど、欲しいものがあるのか?」
バニラ: 「そうと言えばそうな感じ。ダメ?」
嘉祥: 「いやまぁ寄るなら寄るでいいけど……」
何だかバニラらしくない曖昧な言葉選び。
ヘアケア用品はフルセットでこないだ買ったばっかりだし。
まぁ買い置きしておきたい薬もあるから構わないんだけども。
嘉祥: 「じゃあ行くか」
バニラ: 「うん、行く。これで任務達成」
嘉祥: 「任務?」
バニラ: 「まぁネコの世界にも色々ある」
嘉祥: 「……? まぁいいけど……」
ネコの世界って気楽じゃないんだなぁ。
そんなことを考えながらドラッグストアの方へと足を向ける。
ショコラ: 「ねぇねぇご主人さま。せーりつーってなんですか?」
ショコラ: 「あ、せーりってことはもしかして……」
ショコラ: 「お片付けした時に痛くなる筋肉痛のことですか!? ショコラ冴えてますねー!」
嘉祥: 「大体そんな感じだから、もうちょっと静かにな? な?」
またしても店内の視線が突き刺さってくる。
この無邪気さを怒るわけにもいかないですし、分かって下さいこの事情……。
嘉祥: 「とりあえず向こう行こうな? 向こうの方の薬見たいからさ?」
ショコラ: 「向こう了解です! ショコラはご主人さまに付いて行くのであります♪」
ショコラ: 「ところで、ご主人さまは何のお薬を買うんですか?」
ショコラ: 「お薬って、痛かったり苦しかったりする時に飲むんですよね?」
ショコラ: 「もしかして、ご主人さまどこか痛いんですか!?」
ショコラ: 「それならびょーいん行った方がいいんじゃないんですか!?」
嘉祥: 「いやただの常備薬だから。心配ありがとな」
ドアップになって心配してくれるショコラを落ち着かせる。
嘉祥: 「常備薬って言うのは、何かあった時のために買っておく薬のことな」
ショコラ: 「でもショコラが熱出してつらかった時は、ご主人さまがお医者さんに連れて行ってくれましたよ?」
嘉祥: 「あの時は普通じゃなかったし、ショコラはネコだからな」
嘉祥: 「ちょっと風邪引いたとかくらいだったら、お店に売ってる薬で十分なんだよ」
ショコラ: 「へえぇぇ、そうなんですねーヒトの社会は色々あるんですねー」
感心したように色んな薬の箱を手に取って見比べている。
そう言えばネコも人間の常備薬って飲ませて大丈夫なのかな?
前に時雨がシップとかは貼ってるの見たことあるけど……。
ショコラ: 「あ、お隣に病院がありますよ!」
ショコラ: 「ここにお薬がなかったらお隣に行くんですね?」
ショコラ: 「さすがヒトの文明は便利なように出来てるんですねー♪」
嘉祥: 「ああ、そんな感じだな」
とりあえず適当に相槌。
まぁショコラが人間の病院に来ることもないだろうし。
大体合ってるからいいだろう。
嘉祥: 「……って、あれ? バニラは?」
ショコラ: 「あれ? そう言えば見当たらないですね……」
気が付くとバニラがいない。
さっき自分からドラッグストアに来たいって言ってたのに……あれ?
ショコラ: 「くんくん、くんくん……」
ショコラ: 「む、あっちからバニラの匂いがしますよ、ご主人さま!」
嘉祥: 「あっちって……店の外?」
ショコラの指先を追って店の外へと視線を向けると。
バニラ: 「ん? 呼んだ? 愛しのショコラ」
ひょっこりとバニラが店内へと入ってくる。
嘉祥: 「あれ、バニラ。どこに行ってたんだ?」
バニラ: 「ちょっとお花を摘みに」
嘉祥: 「いや思いっきり店の外から入って来たろ今」
トイレの看板は『ご自由に』と店内の奥を指している。
でもバニラがそんな嘘つく意味もないし……。
いや、でも何だかんだネコだって言うのはさっきも見たわけで……?
嘉祥: 「……まさか、トイレが分からずに外で……?」
バニラ: 「ヘンタイ! ご主人がとても失礼!」
バニラ: 「超ヘンタイ! サイテーなヒト!」
嘉祥: 「あ、ああ、いやまぁそうだよな!? そんなわけないよな、すまん……!」
顔を烈火のごとく赤くして怒るバニラに平謝り。
……バニラもこんな怒り方するんだなぁ。
ネコのプライドに障る部分の判断が難しい。
バニラ: 「それより早く帰って開店準備。もう明日だし」
ショコラ: 「ショコラたちもご主人さまのお手伝いしますから!」
嘉祥: 「ネコの手でも借りたいくらいだから、よろしく頼むぞ」
ショコラ&バニラ: 『「はーい!」\n「はーい」』
ショコラ: 「いらっしゃいませー! ご注文はお決まりでしょーかっ!?」
バニラ: 「ハート感が足りない。もっと媚びてもっとお色気を」
ショコラ: 「ふむふむ、お色気かぁ。よし、じゃあもう一回行くね?」
ショコラ: 「あふん、いらっしゃいませぇ~ん♪」
バニラ: 「ごめん。素直に私が悪かったと思う。今のなし」
嘉祥: 「一応言っとくけど、ウチはそういう店じゃないからな?」
ショコラ: 「いらっしゃいませ♪ 当店のオススメはケーキです!」
嘉祥: 「ケーキ屋に入ってきたお客にケーキをオススメしてどうする」
バニラ: 「でもケーキ以外をオススメされても困るでしょ?」
嘉祥: 「いやそうだけど」
俺が明日の仕込みをしている横で看板娘たちが挨拶練習。
さっき『お手伝いします!』って言ってた気がするけどもまぁ気にしない。
まぁそもそも一人で出来る程度の量しか仕込まないし。
嘉祥: 「ん、こんなもんかな」
出来上がったカスタードクリームをひと舐め。
ダマにもなってないし味も均一、甘さも上々だな。
嘉祥: 「さて、次はパイ生地を――」
ショコラ&バニラ: 『「じー(わくわくわくわく)」』
嘉祥: 「…………お前らも味見してみるか?」
ショコラ&バニラ: 『「にゃーん、さすがはご主人さまぁーん♪」\n「にゃーん、さすがはご主人♪」』
カスタードが付いたへらを手渡してあげる。
ショコラ: 「はむ、んむんむ……」
ショコラ: 「おいしーーーーっ! おいしいですご主人さまぁーっ♪」
バニラ: 「おぉ……! ぺろぺろこの甘すぎない甘さがまた、ぺろぺろ後を引くというかぺろぺろ……!」
ショコラ: 「ご主人さま、味見おかわりしてもいいですか!」
バニラ: 「私も替え玉が欲しい」
嘉祥: 「はいはい、了解しました。これが最後だぞ?」
今度は小さめのスプーンに取ってそれぞれに渡してやる。
ショコラ: 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
バニラ: 「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」
まさにネコまっしぐら。
それはもう一心不乱にスプーンを舐める二匹。
まぁこの素直さが可愛いっちゃそうなんだけども。
嘉祥: 「……まぁネコの手でも借りたいっても、やっぱりネコだしな(ボソッ」
ショコラ: 「そそそそんなことにゃいです!!」
ショコラ: 「ショコラだってご主人さまのお手伝い出来ますもん!!」
ショコラ: 「別にショコラは味見がしたくてご主人さまのところに来たわけにゃないのですっ!!」
嘉祥: 「うわ、いきなり飛びつくなってば! 危ない!」
バニラ: 「私はネコだから味見役でいい。ご主人、おかわり」
嘉祥: 「こら、バニラも勝手におかわりすんなって! しかも大盛りで!」
ショコラ: 「大丈夫です! なくなってもショコラがたくさん作りますからご安心を!」
バニラ: 「おお、ショコラが燃えている。これは期待せざるを得ない。ご主人ストップ」
嘉祥: 「ぬあ、バニラちょ、放せって! 分かった、俺が作るから!」
ショコラ: 「ご主人さまが作ってたのを見てたから大丈夫ですよ♪ ショコラにお任せあれ!」
ショコラ: 「えーっとまずはお鍋にミルクと、えっと……」
ショコラ: 「あとヒマワリの種入れるんでしたっけ?」
嘉祥: 「バニラビーンズな! お客はハムスターじゃないからな!?」
バニラ: 「ショコラ、せっかくだからいっぱい作ろう。そしたらカスタード[ヘブン,1]天国」
ショコラ: 「了解、任せちゃってー!」
バニラ: 「生クリームも入れた方がきっと美味しい。生クリームは任せて」
ショコラ: 「あっ……! よ、はっ……! あ、ちょ、これ重っ……!!」
バニラ: 「あ、ショコラ。もしかしてこれは非常に危険ないわゆる――」
ショコラ&バニラ: 『「にゃ゛ああぁああぁああぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁっっっっ!!!!!」』
ショコラ: 「にゃー♪ お風呂きもちーにゃー♪」
バニラ: 「にゃっぷ……! ごしゅじん、水が目に……!」
嘉祥: 「だから目開けんなって言ってんだろーが。ほらもっかい流すぞ」
バニラ: 「にゃうぅ~……お風呂は好きになれないにゃぁ……」
嘉祥: 「自業自得だろ? ほら目閉じて」
牛乳と生クリームまみれになったショコラとバニラをシャワーで流していく。
嘉祥: 「被害がお前らだけだったのが不幸中の幸いだったなー」
嘉祥: 「この上に店の掃除まであったら手間だったしな」
ショコラ: 「ごめんにゃさいのです、でもご主人さまとお風呂は久しぶりで嬉しーのです♪」
嘉祥: 「あーそういえばそうだったな」
バニラ: 「その割にはご主人のお風呂テクがまったく上達してな……にゃぷっ!?」
嘉祥: 「ほら、今度は口開けるから。ちょっと黙ってろってば」
バニラ: 「にゃうぅ~……ご主人は理不尽にゃ……」
仔ネコだった頃はたまに一緒に風呂入ったりもしたけども。
こいつらが成長し始めてからは一緒に入ることも控えるようになった。
……別にネコたちにやましい気持ちがあるわけでもなくて。
小さい頃から見てるから、妹――と言うよりは娘に近い感覚だし。
……それにしても、多少なりとも女っぽくなったなぁ。
いやまて、相手はネコだぞ? そんなこと思ってどうする俺!
ショコラ: 「どうしましたか、ご主人さま? 濡れた猫ちゃんみたいに頭ぶるぶるして」
嘉祥: 「え? あ、いや別になんでもないぞ?」
嘉祥: 「えーと、そう、お前らの髪も伸びたなーって思ってな?」
ショコラ: 「時雨ちゃんが良い毛艶だから伸ばそうって、ずっと伸ばしてますからね♪」
ショコラ: 「長く感じるのはきっと、ご主人さまがずっとお風呂入れてくれなかったからですよー?」
バニラ: 「ご主人は面倒くさがりだから仕方ないね」
バニラ: 「飼いネコのお願いも聞いてくれないご主人だから」
嘉祥: 「ネコとは言え年頃の女の子なんだから」
嘉祥: 「恥じらいを持ちなさい。恥じらいを」
ショコラ: 「恥じらいにゃあ。時雨ちゃんもたまにそう言うんですよねぇ」
ショコラ: 「でも恥じらいって言われてもピンとこないにゃー」
バニラ: 「そういうヒトの感情は、発情期を迎えてもいないネコには難しい」
嘉祥: 「ったく、都合のいいとこだけネコなんだからなー」
嘉祥: 「ほら、頭洗うぞ?」
シャンプーを手にとって髪に塗りこんで泡立てて行く。
時雨がずっと手入れしてた甲斐あって枝毛もなく綺麗な髪。
素人目にもこれなら確かに伸ばす価値があると思う。
バニラ: 「ご主人、そんなこと言って喜んでるくせに。えっち」
ショコラ: 「にゃにゃにゃっ……!? ご主人さま、そんな目でショコラをっ……!?」
バニラ: 「ふふ、ネコの目はごまかせない」
嘉祥: 「バニラはさっきからずっと目閉じてただろ」
嘉祥: 「それにお前らみたいなネコに欲情するか」
嘉祥: 「手のかかる娘みたいなもんだろーが」
ショコラ: 「にゃーん♪ ご主人さまがパパですかー、それもいいですけどねー♪」
バニラ: 「悪くはないってことにしといてあげてもいい」
嘉祥: 「はいはい、光栄にございます」
そんなネコたちを微笑ましく思いながら髪を梳いていく。
可愛い娘たちの世話をしてると思うと、こういうのも悪くないな。
時雨も昔からずっと俺の後を付いて来てたし。
我ながら結構面倒見がいい方なのかも知れない。
嘉祥: 「ほら、髪洗ってる間に自分たちでちゃんと身体も洗えよー尻尾も忘れずになー」
ショコラ: 「せっかくだしご主人さまが洗って下さいにゃーん♪」
嘉祥: 「お前らの髪洗うので手一杯なの」
バニラ: 「じゃあケチなご主人に代わって、いつもみたいに私が洗ってあげちゃおう」
嘉祥: 「ああ、そうしてやってくれ」
嘉祥: 「はいまた流すぞー目と口閉じて息止めてー」
バニラ: 「にゃぷっ……! ご主人、わざと顔に……!」
バニラ: 「にゃっ、耳に入っ……! んっ、にゃあぁぁ~っ……!」
ショコラ: 「にゃははっ♪ ご主人さまー、ショコラにもシャワー掛けてくださーい♪」
嘉祥: 「はいはい、順番なー」
……余計な手間ではあるけども、こういうのも気分転換には良いのかもな。
そんなことを思いながら丁寧に二匹の髪を流していった。
嘉祥: 「……よし、スポンジの生地の仕込みもこれで良し、と」
ボウルの中の練った生地にラップを掛けて冷蔵庫に仕舞いこむ。
ま、開店当日に都合よく満員御礼なんてこともないだろうし。
これだけあれば十分足りるだろう。
あとは実際に店を開けてから詰めてくしかないことだし。
嘉祥: 「よし。後はトッピングで使う果物をカットして終わりってところかな」
ノビをして時計を見ると23時を回って0時になろうかと言う時間。
嘉祥: 「ショコラ、バニラ。もう終わるから、お前らは先に寝て――」
嘉祥: 「…………んん?」
ショコラ: 「くー……くー……」
バニラ: 「すー……すー……」
振り返ると2匹がソファの上で寝息を立てていた。
仲良く寄りかかり合いながら良い夢を見てるように微笑んでいる。
嘉祥: 「……終わるまで起きてます、なんて言ってたのにな」
今日は朝からずっとはしゃいでたから疲れたのかもしれない。
しゃがみ込んで二匹の頬をふにふにと突っつく。
ショコラ: 「んん……ふぁい、いらっしゃいませぇ……」
ショコラ: 「それいゆのかんばんねこの、しょこられす……♪」
バニラ: 「にゃあ……ごしゅじん、こうちゃうりきれた……」
バニラ: 「けーきもはやくつぎやいて……はりーはりー……」
ショコラもバニラも夢の中で一足先にウェイトレス中。
どうもソレイユは満員御礼の様子で忙しそうだ。
嘉祥: 「……やっぱりまだまだ子供だな」
遠足前に興奮してる子供みたいで可愛らしい。
ネコたちの頭を優しく撫でると、
トリートメントの甘い匂いがふわっと鼻をくすぐった。
嘉祥: 「ほら、こんなとこで寝たらダメだろ? ベッドに行くぞー?」
ショコラ: 「にゃぁ、ん……おしごとちゅうに、おさわりはだめですよぉ、ごしゅじんさまぁ……♪」
バニラ: 「せくはら……ごしゅじん、そういうのはおきゃくにしちゃだめ……」
バニラ: 「わたしなら、そこそこがまんしてあげるから……」
嘉祥: 「何言ってんだお前らは」
起きるつもりも気配すらもなさそうだ。
仕方なく1匹ずつ抱きかかえて部屋へと運ぶ。
ショコラ: 「すー……すー……ごしゅじんさまぁ……すー……」
バニラ: 「にゃむ……しょこらぁ……すー……すー……」
嘉祥: 「手のかかるネコたちだな、まったく……」
くっついて丸まっている二匹に掛け布団を掛けてやる。
そしてもう一度、そっと頭を撫でてから音を立てないように部屋のドアを閉める。
嘉祥: 「……よし、もうひと頑張りだな」
一人になったリビングで、身体をぐっと伸ばしてひとつ深呼吸。
嘉祥: 「ショコラとバニラのためにも、明日からはもっと頑張らないと」
大事な家族の名前を呟いて、仕込みの続きへと手を伸ばした。