nekopara-scripts/vol1/jp/01_03.txt

347 lines
30 KiB
Plaintext
Raw Permalink Blame History

This file contains ambiguous Unicode characters!

This file contains ambiguous Unicode characters that may be confused with others in your current locale. If your use case is intentional and legitimate, you can safely ignore this warning. Use the Escape button to highlight these characters.

ショコラ: 「ご主人さま! お店に近づく人影アリです!」
ショコラ: 「戦闘体勢は良いですかっ!? あーゆーれでぃ!?」
バニラ: 「先にこっちから捕まえに行った方が早い。上手くやるから私に任せて」
嘉祥: 「待て待て待て。まだ開店して5分なんだから」
ネコたちが窓際で獲物を狙うように身を潜めている。
ついに開店したとは言え、当然お客が並んでるようなこともなく。
俺もカウンターに肘を突きながらネコたちの後ろ姿を眺めていた。
嘉祥: 「お客が来たら対応すればいいから」
嘉祥: 「最初っからそんな気を張ってたらすぐに疲れちまうぞー」
ショコラ: 「バニラ見て! あそこ歩いてる女の人!」
ショコラ: 「すごく甘いもの好きそうなスイーツ顔してるよ!」
バニラ: 「おぉスイーツ。でもショコラ、それあんまり褒め言葉じゃないから」
バニラ: 「お客さんの前では気をつけるがよろし」
嘉祥: 「……聞いちゃいないし」
耳すらもこっちに向けやしないネコ二匹。
まぁそれだけ来客を心待ちにしてくれてるんだろうけど、飼い主としてちょっと切ない。
嘉祥: 「ま、とりあえず最初は気長に待って――」
女性客: 「失礼するぞ」
ショコラ&バニラ: 『「いっ、いにゃっ、いにゃっしゃいませえぇえぇっ!!!」\n「いにゃっちゃ、い、いらっ、いいいいらっしゃいませぇえぇ」』
女性客: 「ひゃあぁあぁぁっ!? な、なな、なななな何ですかっ!?」
ショコラ: 「ご、ご注文はにゃんでしょうかっ!?」
ショコラ: 「あっ、お、オススメはアレです、アレ! えっと、アレです!! ケーキ!!」
バニラ: 「紅茶もあるの……! その、あったかいのと、冷たいのと……!」
バニラ: 「えっと、熱いのと、えっと、冷たいのと……!!」
嘉祥: 「お前らはちょっと落ち着け」
入店してきたお客に強烈に詰め寄る二匹を引っぺがす。
嘉祥: 「大変失礼致しました。店長の水無月と申します」
嘉祥: 「こちらがメニューになっておりますので、ごゆっくりお選び下さ――」
嘉祥: 「…………んん?」
嘉祥: 「……お客さ……ま……?」
女性客: 「ふむふむ。立地と言い色使いと言い、なかなか素晴らしい店構えじゃのう」
女性客: 「内観のセンスもシンプルを基調に、小物なども落ち着く空間作りで素晴らしい!」
身体、顔の大きさにあからさまに不釣合いな大きなサングラス。
そして時代錯誤な大正マントと軍帽のセット。
さらに芝居がかった大げさな口調と、これまたマッチしてない聞き覚えのある声。
女性客: 「ふむ、気に入った! ここにあるケーキは全部ワシが買おうではないか!」
時雨: 「さぁさ店主、ありったけケーキを詰めるがいい!」
女性客: 「あ、カードって使えますよね?」
嘉祥: 「いや時雨、何やってんだよお前」
時雨?: 「はっはっは! 時雨とはなんぞ? お主、誰かと勘違いしてるようじゃの!」
嘉祥: 「何ぞって言われても、お前の名前だよ」
時雨?: 「そんなプリチーで一途な兄さまの妹のような娘っ子が、こんなところにおるはずないではないか!」
時雨?: 「良い良い、無礼は気にするでないぞ! せっかくの開店日に水を差すような真似はしたくないからの!」
嘉祥: 「だったらいい加減その良くわからない小芝居止めろって」
嘉祥: 「てか何でお前がこの店の場所知ってんだよ」
嘉祥: 「そもそも誰にも言ってないのに」
時雨?: 「と、とりあえず黙ってありったけのケーキを寄越すが良い! 言い値で買おう!! 早くせい!!」
嘉祥: 「いやそんな強盗みたいなこと言われても」
時雨?: 「客を選り好みするとは何たることじゃ!」
時雨?: 「そんな態度では、毎日通って開店と同時に買い占めてくれる上客を逃してしまいますぞ!?」
時雨?: 「商売とは稼げる時には非情にでも稼がねば成り立たぬのです!」
時雨?: 「それに兄さまにそんな冷たい目で見られたら悲しい! 悲しいのです!」
時雨?: 「これでも何か力になれればと思って今日まで我慢をしましたのにっ……! うぅぅっ……!!」
嘉祥: 「だから選り好みとかじゃなくてだな……」
泣きが入って来た上にキャラがブレブレ。
何が言いたいのかまったくわからない。
ショコラ: 「あ、時雨ちゃんだー! 久しぶりー♪ 元気にしてたー!?」
バニラ: 「時雨、何その格好? 流行ってるの?」
時雨?: 「あ、こら! ワシは時雨ちゃんではなっ……!」
時雨?: 「あっ、ちょ、外套を引っ張るでな……あっ、あ……ちょ!」
時雨?: 「アッーーーーー!」
アズキ: 「よー。数日ぶりだな、ショコラ、バニラ」
メイプル: 「あら、それが制服? 可愛いじゃない、馬子にも衣装って感じで」
シナモン: 「ショコラちゃんもバニラちゃんも元気そうで良かったぁ」
シナモン: 「急にいなくなっちゃうから心配したんだよー?」
ココナツ: 「そうだよ、すごくすごく心配したんだよ?」
ココナツ: 「嘉祥様に付いてくなら一言言ってくれれば良かったのに」
ショコラ: 「あはは、ごめんね? ついつい勢いでのことだったから」
バニラ: 「また会えたから問題ない。みんな元気そうで何より」
時雨: 「うんうん。ネコたちも感動の再会を喜んでいるようで何よりですね」
嘉祥: 「何よりってお前な……」
一気に店内の人口密度がマックスに。
しかも呼んでもいない身内オンリーで。
時雨: 「お久しぶりです、兄さま。元気そうで安心いたしました」
時雨がいつも通りの折り目正しく丁寧な物言いで微笑む。
基本的にはこっちの穏やかで物腰の丁寧な我が妹。
たまに変なスイッチ入ってる時もあったりはするけど。
嘉祥: 「まだ数日ぶりだろ」
嘉祥: 「てか何でここ分かったんだよ? 教えてないのに」
時雨: 「実の妹に愚問です、兄さま」
時雨: 「一言で言えば妹の愛にございます」
嘉祥: 「いやそういうの今は良いから」
時雨: 「まるで芸風の様に言うのは止めて下さい。時雨は本気ですのに……よよよ」
時雨が手を口元に当てる。
その着物の裾からハラリと紙が落ちる。
嘉祥: 「これは……」
時雨: 「素敵なショップカードにございますね。さすがは兄さまです」
嘉祥: 「いや、これまだ配ってないんだけど」
そう言ったところでピンと来る。
嘉祥: 「……お前の仕業か、バニラ」
バニラ: 「引っ越しの時に送り出してくれた取引。だから仕方ない」
昨日ドラッグストアでいなかったのは、これを時雨に送りに行ってたのか……。
どうりで『これで任務達成』とか言ってたり、追求をはぐらかしたり。
嘉祥: 「ってことはアレか。時雨に最初に連絡がつかなかったのも」
嘉祥: 「ショコラとバニラを荷物に紛れ込ませたのも全部お前の仕込みか?」
時雨: 「はい、その通りにございます」
時雨: 「決してショコラやバニラが悪いわけではないのです」
時雨: 「ですから、責めるならこの妹めをソフトめな言葉責めにてお願いします。ちょっと強気めで」
嘉祥: 「ソフトな強気めってなんだ」
時々この妹は言ってることが分からない。
まぁ昔からなので気にならないけど。
嘉祥: 「……まぁ、時雨に何も言わずに黙って出て行った俺も悪かったしな」
バツが悪くて頬を掻きながら視線を逸らす。
昔から『兄離れ出来ない妹』なんて揶揄されるくらい俺のことを慕ってくれてる。
だからこそ、こんな回りくどくて強引な手法も使ったんだろうし。
ある意味ではショコラやバニラ以上に気苦労を掛けてしまったとも思う。
だから特に文句を言う気にもならない。
時雨: 「兄さま……」
時雨: 「……はい。時雨は兄さまのことをとても心配しておりました。ご健勝で何よりです」
嘉祥: 「たった数日でどうかもならないけどな」
健気な笑顔を浮かべる時雨の頭を撫でる。
ネコたちと同じように気持ちよさげに目を細めて笑い声を漏らす。
アズキ: 「おー嘉祥。水くせーだろ? 時雨も他人じゃねーんだからさー」
アズキ: 「時雨はここ数日、ほんとに気が気じゃなかったんだぞ?」
アズキ: 「アタシたちのメシ忘れるくらい」
メイプル: 「ね、ホント困っちゃったわよ」
メイプル: 「檻に入れられた動物みたいに部屋の中をグルグルグルグル回ってはため息、ため息でさー」
メイプル: 「連絡先教えるくらいすればいいのに」
メイプル: 「そんなにあたしたちと縁を切りたかったなら別だけど?」
アズキ: 「どうせアレだろ? 一人で何も言わず去ってく俺カッコイイとか思ってたんだろ?」
メイプル: 「あーありそ-ありそー。ヒトのオトコってほんとにめんどくさいわよねぇ」
わざとらしく両手を上げて呆れる二匹に苦笑いで応える。
アズキもメイプルも言うことがストレートできついけど、その分素直で何も言い返せない。
嘉祥: 「悪かったよ。アズキ、メイプル」
嘉祥: 「今は反省してるからそうイジメないでくれってば」
シナモン: 「あはは。でもアズちゃんもメーちゃんも、とっても心配してたんですよ~?」
シナモン: 「2匹とも、時雨ちゃんのパソコンとか携帯電話で嘉祥さんの名前を必死に検索したりしてね~♪」
ココナツ: 「くす。二匹とも素直じゃないからね、年長者の割に」
ココナツ: 「私もいざとなったら時雨さまの変わりに、自分の足で探すつもりだったけど」
嘉祥: 「シナモンもココナツも、余計な心配掛けてすまなかったな」
嘉祥: 「もう今後はこんなことしないから勘弁してくれ」
シナモンとココナツにも頭を下げる。
こうやって実家のネコが全員来てくれて。
今は本当に家族の暖かみがありがたく思える。
時雨: 「お父さまの耳には入らないようにしておきますので、ご安心下さい」
嘉祥: 「ああ、頼む。お前には色々と気苦労掛けてすまないな」
時雨: 「そんなことは何も」
時雨: 「私はいつでも兄さまを見て来ましたし、これからも応援していますから」
小さな両手で俺の手をそっと包んでくれる。
黙って出て行ったことなど一言も口にしないまま。
ただ許してくれるように。
本当に俺には不釣り合いなくらい良く出来た妹だ。
時雨: 「でも、お母さまは兄さまのことをとても心配していらっしゃいますよ?」
時雨: 「落ち着いたら一報だけでも連絡をしてあげたら、安心すると思います」
嘉祥: 「分かった、そうするよ」
時雨: 「はい。では約束の指切りです」
お互いの小指を絡めて、小さな頃からずっと同じ約束の指切りをする。
これをすると決まって時雨がイタズラっ子のような笑顔を浮かべるのが愛らしい。
時雨: 「……でも、兄さまのソフトな言葉責めも少し期待はしていたのですが。ポッ」
嘉祥: 「自慢の妹が台無しだな」
まぁこんなところも含めての我が妹だけども。
これもいつものことなのでお互いに気にしない。
時雨: 「でも本当に立派で素敵なお店ですね」
時雨: 「もう兄さまが隠れてケーキ作りをしなくても良いのだと思うと、時雨まで嬉しくなってしまいます」
嘉祥: 「お前とネコたちには、証拠隠滅のために協力してもらいっぱなしだったしな」
時雨: 「ふふ。家の和菓子も好きですけども、兄さまのケーキは世界で一番ですから」
時雨: 「……これでもう本当に兄さまが家には戻らないと思うと、寂しさで胸が締め付けられてしまいますが」
時雨: 「でもきっとこのお店も、たくさんのお客さまに愛して頂けることでしょう」
少しだけ困ったような笑顔を浮かべながら。
時雨もショコラ、バニラと同じ笑顔で同じことを言ってくれる。
嘉祥: 「そう上手く行けばいいけどな」
だから俺も前と同じように頭を撫でて、同じ返事をした。
時雨: 「わぁ、私、洋菓子店の厨房は初めて拝見しました」
時雨: 「やはり水無月家の和菓子の厨房とは置いてあるものが違うのですねー」
時雨が興味深そうに回転台やローラー類、分割器などの器具を見て回る。
もちろん同じものもたくさんあるけども細かいところは違うものが多い。
時雨: 「兄さまはこちらでケーキをお作りになるのですね」
時雨: 「和装の兄さまも垂涎モノでしたが、パティシエバージョンも女心にきゅんきゅん来るものがあります」
時雨: 「ああっ……! 許されることであればライブカメラを設置して、兄さまのお姿を24時間愛でられるようにしたい……!」
嘉祥: 「もちろん許されないからなそれ」
そもそも24時間ここにいるわけじゃないし。
相変わらず際どい発言をする我が妹だ。
時雨: 「でもショコラもバニラも元気そうで安心しました」
時雨: 「兄さまならきっと受け入れてくれると、疑っておりませんでしたが。くすくす」
厨房の端に置いてあったネコの飼い方の本を手に取って、いたずらな笑い声をこぼす時雨。
嘉祥: 「まだまだ勉強中で分からないことだらけだけどな」
本を読むと家のネコたちは優秀なネコなんだなと改めて実感する。
流暢に言葉が話せて、人間がストレスなく一緒に生活が出来るだけで優秀らしい。
嘉祥: 「勉強すればするほど、時雨の教育ママっぷりの凄さが良く分かったよ」
時雨: 「厳しいしつけも愛情あってこそですから。ネコたち自身のためにも、です」
まさに母親と言ったように胸を叩いて片目を閉じて見せる。
小柄でも頼もしく見えるのは、ネコ6匹を育てた自信なんだろうな。
今さらながら時雨の意外な一面を知って、兄として誇らしく思える。
嘉祥: 「俺もちゃんと飼うって決めた以上は、ちゃんと責任取るよ」
時雨: 「はい。時雨は兄さまのことは何一つ疑っておりませんから」
時雨: 「でもお店で働かせるのなら、ちゃんと資格を取らせないとですね」
嘉祥: 「資格? 調理師免許ってことか?」
時雨: 「くすくす。違いますよ、兄さま。そうではなくてですね?」
時雨: 「ネコを単独行動させたり従業員として扱うには……」
時雨: 「対象のネコに『単独行動許可証』という資格が必要なのです」
時雨: 「許可証なく外を歩いたりしたらば、ネコは警察に補導されてしまいますから」
時雨: 「それに許可証なく従業員としては使えません」
時雨: 「無料のお手伝い程度ならまた別の話なのですが」
嘉祥: 「許可証って……家のネコたちだって、外に出る時にそんなの持ってなかっただろ?」
家のネコたちが時雨の使いで外出する時のことを思い出してみる。
でもそんな許可証めいたものを持っていた記憶はないんだけど……。
時雨: 「くす、ちゃんと全員いつでも持っていましたよ?」
時雨: 「では兄さま、どうぞこちらへ」
時雨に促されて店の中へと戻る。
嘉祥: 「へぇぇ、この鈴が許可証だったのか……」
メイプル: 「ま、ネコとして鈴くらいは持ってないとね」
メイプル: 「自由に外も歩けないなんて不便でしょうがないし」
アズキ: 「アタシらはネコん中でも選ばれしネコってワケよ」
アズキ: 「そんじょそこらのネコとはちげーってわけだ」
シナモン: 「一応、合格割合は10匹に1匹くらいって言われてますからね~」
シナモン: 「もうこりごりってくらい勉強も大変でしたよ~」
ココナツ: 「時雨さまのネコなのに『鈴持ち』でないなんて」
ココナツ: 「それはご主人さまに恥をかかせてしまうことだからね」
全員が誇らしげに鈴を鳴らして見せる。
鈴にそんな意味があるとは思いもしなかった。
ただの時雨の趣味だと思ってたなぁ。
時雨: 「ネコの身分証明証代わりになりますし、これがあると何かと便利なのですよ」
時雨: 「人の集まるペット禁止の施設やイベントでも問題なく入れますし」
時雨: 「他にもGPS機能で迷子にもならないですしね」
時雨: 「自分の店内で少し働かせるくらいで文句は言われないですが」
時雨: 「従業員としてちゃんと使うならば資格は取らせた方がよいかと」
嘉祥: 「なるほど。ネコにも色々とあるんだな」
俺も飼い主として時雨の勉強量は見習わないと。
時雨: 「ショコラとバニラもそろそろ鈴を取らせようかとは思ってはいたのですよ」
時雨: 「ですから、これも丁度良い機会かも知れませんね」
時雨: 「ね、ショコラ、バニラ?」
ショコラ: 「ご主人さまのお役に立てるのでしたら頑張ります! すっごく頑張りますよー!」
バニラ: 「これでみんなと一緒にお出かけも出来る。仲間外れは寂しい」
時雨: 「もちろん、飼い主である兄さまの協力も必須ですからね?」
嘉祥: 「ああ。甘やかすだけじゃネコのためにならない、だろ?」
時雨: 「くす、その通りです」
時雨: 「人間社会の常識を身につけることによって、もっと豊かな生活を送れるのです」
ショコラ: 「わーい! ショコラも鈴持ちになってご主人さまと遊園地とか行きたいです!」
バニラ: 「私は遊園地もいいけど水族館に行きたい」
バニラ: 「イルカとかペンギンとかシロナガスクジラとか見たい」
嘉祥: 「シロナガスクジラのいる水族館はないけどな」
ココナツ: 「うんうん。私も鈴をもらう前は留守番とかもあったから、寂しい気持ちはよく分かるよ」
ココナツ: 「応援してるから一発合格出来るように頑張ってね。ショコラ、バニラ」
アズキ: 「あーあー、これだから頭でっかちなメインクーンは困るよなー」
アズキ: 「別に合格さえすりゃ回数が問題じゃねーんだよ。もらえる鈴は同じなんだしよー」
アズキ: 「それが唯一の自慢とか、乳臭いガキすぎてお里が知れるわ」
アズキ: 「離乳食でも食ってろっつーの、ハンッ」
ココナツ: 「自分は試験に2回も落ちたからってひがむことないんじゃない?」
ココナツ: 「あ、もしかしてその短い手足が実技で不利だったの?」
アズキ: 「なんだとゴルァ!? これがマンチカンのアイデンティティなんだよ!!」
アズキ: 「ガキがネコ語るなんて二千万年はえーんだよこのダボハゼがぁあぁぁ!!」
ココナツ: 「無駄に年だけ取ってるネコに先輩面されたくないね」
ココナツ: 「尊敬されたければ、それだけの価値のある背中を見せて欲しいな」
ショコラ: 「ケ、ケンカはダメだってばー! 二人とも落ち着いて! ね!?」
シナモン: 「そ、そうだよ~! あんまりストレス貯めると、円形脱毛症になっちゃうよ~?」
ショコラ: 「あ、そうだ! こないだご主人さまが買ってくれたオモチャがあるんだよ!」
ショコラ: 「アレで遊べば細かいことなんかどうでも良くなるんだよ! ね!?」
メイプル: 「アズキもココナツもほんとに飽きないわねぇ、毎日毎日」
メイプル: 「あーもう、暴れるならホコリ立つから外でやってよね、外でー」
バニラ: 「水無月家の平常運転だね。ソレイユでも変わらず」
バニラ: 「メイプル、紅茶淹れてあげる。何がいい? オススメはだーじりそ」
メイプル: 「バニラは素直で可愛いわねぇ」
メイプル: 「じゃあオススメちょうだい。あと名称はダージリンね?」
バニラ: 「おっけー任せといて。お客さんとして初淹れはメイプルに捧ぐ」
嘉祥: 「…………」
……この様相を見てると、とても知能的だとは思えないよな。
バニラの言うとおりの水無月家の日常と言えばそれまでだけど。
でもきっとお外では優秀なんだろうなぁと言うことで。
時雨: 「はい、ケンカは終わりですよー」
一同: 『「むっ」「はっ」「ん?」\n「ほぇ」「はい」「はい」』
時雨: 「兄さまの新たな門出の日にケンカとはどういうことですか」
時雨: 「そんなことでは鈴持ちの水無月のネコとして恥ずかしいことですよ?」
ショコラ: 「ショコラたちまだ鈴持ちじゃないけどね」
バニラ: 「ねー。だからまだ恥ずかしくない」
メイプル: 「あたしはケンカしてないし」
メイプル: 「はぁ~おバカたちのせいでとんだとばっちりねぇ」
アズキ: 「ンだとテメー。実は一番ビビリで情けねーくせに余裕ぶりやがって」
ココナツ: 「夜、トイレに行くときは部屋と廊下の電気全部点けて行かないとダメなくせにね」
メイプル: 「にゃ゛ーっ! あたしは夜行性とか夜目とかそういう本能に流されないネコだって言ってんでしょこのバカニャーたちがーっ!!」
シナモン: 「そんなところがメーちゃんの可愛いところですからね~」
シナモン: 「普段のタカビーも可愛く見えてしまうと言うか~♪」
メイプル: 「ふしゃーっ! 魔法少女みたいなカッコしてるくせに、あたしのことバカにしてー!」
メイプル: 「魔法唱えさせてユーツーブに動画アップするわよ!?」
シナモン: 「ふぇぇっ!? ひ、ひどい~、インターネットの海に放流したら一生消えないんですよ~!?」
シナモン: 「それに魔法少女だって、時雨ちゃんが似合うって言ってくれてるんですからいいじゃないですか~! にゃあぁぁ~~ん!!」
時雨: 「はいはいはいはいはい静粛に! せーしゅくにっ!!」
時雨: 「繰り返しますが、今日は兄さまの新たな門出記念日。私の新たな祝日が生まれた日です」
時雨: 「そして、ここにあるケーキは先ほど全部私めが買わせて頂きました」
時雨: 「よって、今日だけはネコたちも好きなだけ食べて良いですよ」
アズキ: 「マジでか時雨! 2個食いとかしてもいいのか!?」
ココナツ: 「ぜ、全部食べ放題……!?」
ココナツ: 「ってことは、1ホール全部食べてもいいってこと……!?」
嘉祥: 「え、全部買ったって……は? ちょ、時雨さん……!?」
メイプル: 「ケーキならお茶はアールグレイにしてもらえる? ああもちろん温度はぬるめにしてね」
ショコラ: 「はーい、お任せあれー♪ ご主人さまも時雨ちゃんも紅茶でいいよねー?」
バニラ: 「私も手伝う。看板ネコとして初働き」
シナモン: 「わーい♪ じゃあわたしは外に『売り切れ閉店』の紙張ってくるね~♪」
嘉祥: 「いやだからちょ……! お、お前らちょっと待てってば!」
時雨: 「兄さまー? 妹めはあーんを、あーんを所望にございます♪」
時雨: 「お買い上げサービスにそのくらいのサービスはしても良いと思うのです、あーん♪」
アズキ: 「んおぉっ!? うめぇっ、うめぇなコレ!!」
アズキ: 「嘉祥のヤツもなかなかやるじゃねーかはぐはぐむぐもぐ!!」
ココナツ: 「ふわぁぁっ……♪ まさか、ぼくの猫生にケーキ1ホール食べれる日が来るなんてっ……!」
ココナツ: 「あぁ幸せ、ぼくは今猛烈に幸せだぁっ……! んぐんぐ……!」
メイプル: 「んー、いい香り。やっぱり猫舌にはぬるめよねー♪」
メイプル: 「お茶請けにアップルパイちょうだい?」
シナモン: 「わたし焼きたてのアップルパイが食べてみたかったんです~!」
シナモン: 「嘉祥さん、後生ですからお願いします~!」
ショコラ: 「ご主人さま、シュークリームがもうなくなっちゃいましたー!」
ショコラ: 「至急増産をお願いします! びしっ!」
バニラ: 「ぬぬぬ……! ご主人、茶葉のストックに手が届かない……! 取って……!!」
嘉祥: 「……もう、好きにやって下さい」
こうして記念すべき開店初日は、開店30分でいきなり完売の張り紙が貼られたのだった。
嘉祥: 「ただいまー」
ショコラ: 「ご主人さまー! ご主人さまー見て下さいー! すごいんですよー!」
バニラ: 「すごい、めっちゃかわいい! ほんとにすごい! ほんとに!」
嘉祥: 「どうしたんだ? 二匹揃ってそんな興奮して……」
買い物から帰ってくるなり二匹のテンションが青天井。
少し家を空けてたレベルで何かあったとも思えないけど……。
またあのネコオモチャで必死に遊んでたのかも知れない。
ショコラ: 「いいから来て下さい! ほんとすごいんですって! ほんとにすごいんです!」
嘉祥: 「いやすごいのは分かったから、一体何がすごいんだって」
バニラ: 「いいからこっち。百聞は一見にしかず。見た方が早い」
嘉祥: 「見た方が早いって、そっちは空き部屋しかないだろ?」
ショコラとバニラに空き部屋へと手を引かれて行く。
嘉祥: 「うぉっ……!? こ、これはっ……!?」
ドアを開けた瞬間、目の前に広がるピンクと白。
床、ベッド、タンス、クッションがところ狭しとアンティーク調なローズデザイン。
しかも部屋の中からは、いかにも高級そうな甘い匂いまで漂ってくる。
明らかに俺の家にはなかった部屋が目の前に広がっていた。
思わずドアがどこか異空間に繋がっていたのかとさえ疑いたくなる。
ショコラ: 「時雨ちゃんが全部手配してくれたんですよー! すっごい可愛いですよねー!」
バニラ: 「不憫に思った時雨が用意してくれた。これでご主人もソファで寝る日々からサヨナラだね」
嘉祥: 「……そう言えば実家のネコ部屋もこんな感じだったもんな」
思わず頭を抱えて壁にもたれかかる。
実家にあるそれぞれのネコ部屋は時雨の趣味でほぼこんな感じだったのを思い出す。
時雨自身の部屋は両親の目もあるから割と普通の和室で、その分趣味がネコたちに注がれてるらしい。
そもそもネコたちの洋服も時雨の好みで選んでるって言ってたしな。メイプル以外は。
ショコラ: 「うわーい、べっどふっかふかでいー匂いー♪」
バニラ: 「めっちゃばいんばいん。これならショコラと一緒でも余裕」
時雨は教育ママではあるけど、それ以上に甘いところがあるのを忘れていた。
てかいつの間にこんなもの手配してたんだアイツは……。
俺が出かけてる間に運び込む手際と言い、ほんと無駄な才能に長けてるなぁ。
嘉祥: 「……まぁ、ここはお前らの部屋だから好きにすればいいんだけどな」
ショコラ: 「えへへ、羨ましいですかー?」
嘉祥: 「まぁ高級そうなベッドとかはな」
バニラ: 「ふふ。時雨がご主人もきっとそう言うだろうからーって」
嘉祥: 「…………は?」
ショコラ: 「にゃーん、ご主人さまのお部屋もお揃いで素敵ですー♪」
バニラ: 「ご主人ベッドも負けず劣らずばいんばいんのふっかふか」
ショコラ: 「どうですどうですー? ご主人さまも嬉しいですかー?」
バニラ: 「時雨の兄想いな心にはほんと頭が下がるね」
嘉祥: 「時雨えぇえぇええぇぇぇぇぇえぇぇぇえぇーーーーーー!!!!」
色々と新品なものをまさか捨てるわけにもいかず。
こうして俺もファンシーな姫roomで生活する羽目になった。
……でも意外に寝心地は最高で文句なかった。