nekopara-scripts/vol1/jp/01_06_c.txt
2021-02-14 20:13:26 -08:00

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Plaintext

ショコラ: 「ん……ご主人さま……すー、すー……」
バニラ: 「ショコラ、ご主人……すー、すー……」
ショコラ: 「はぁ……ご主人さまぁ~……♪ ごろごろごろ……♪」
バニラ: 「ん……ご主人……ショコラぁ……♪ ごろごろごろ……♪」
小さな寝息を立てながら、
二匹して俺の身体に頬をすり寄せてくる。
それぞれの手でショコラとバニラの頭を撫でて。
緩む口元もそのままに天井を見上げる。
嘉祥: 「……でかいベッドが、こんな風に役に立つなんてな」
まさか三人で川の字になって寝るなんて。
想像もしてなかったことを声に出して呟く。
嘉祥: 「……もう流されたとか言い訳は出来ないな」
最初からそんな言い訳をするつもりもないけど。
柔らかい感触と、あったかい体温を体中に感じながら。
素直に愛おしいと思うネコたちの頭を撫で続ける。
ショコラ: 「んにゃぁ……ご主人さま、バニラぁ……」
ショコラ: 「ご主人さまと……バニラとショコラ……」
ショコラ: 「みんな、だいすきで、ずっといっしょですね……♪ にゃむにゃむ……」
バニラ: 「にゃぁ……うん、ずっといっしょ……」
バニラ: 「ショコラと、ご主人と、私で……にゃむにゃむ……♪」
嘉祥: 「あぁ、そうだな。ずっと一緒だな」
寝言でもそんな会話をしながら、
もにゅもにゅと口を動かす二匹に思わず笑い声がこぼれてしまう。
嘉祥: 「……思ってたのとは、ちょっと違うけど」
一人で家を出て、独立して。
楽しいこともつらいことも全部一人で背負って。
これからは一人で生きていこうと、そう思ってたけど。
嘉祥: 「……こんな風に大切に想い合えるパートナーがいるのも、幸せなんだな」
失敗とかかかる手間も確かに多いけど。
でも、お店も自分も、一生懸命に支えてくれるネコたち。
まだ大して時間も経ってないのに。
ショコラとバニラがいない時間の想像もつかない。
ショコラ: 「ご主人さま……ショコラも、しあわせです……♪ すー……」
バニラ: 「ご主人……バニラも、今がしあわせ……にゃぅ……」
嘉祥: 「ああ、俺もだよ。ありがとうな」
寝言でもそんな風に応えてくれる二匹に。
そっとキスをしてから、俺も目を閉じて眠りについた。
時雨: 「発情期で体調崩す、ですか?」
時雨: 「そんなことはないと思いますけれども」
開店前の朝一番に来訪した時雨が、
さも当然と言った澄まし顔で紅茶をすする。
嘉祥: 「えっ……だって、そう聞いたんだけど……」
時雨: 「現に家のネコたちは元気にやっております」
時雨: 「多少は運動などで発散はさせていますけども」
嘉祥: 「……そう言われてみれば、確かにそんな気も」
家でそんな現場を見たこともないし。
いや女の時雨がそもそもどうこうできるものでもないし……。
嘉祥: 「でもバニラがそう言ってたぞ」
嘉祥: 「なぁバニラ?」
バニラ: 「時雨が、ご主人を説得するにはそう言えばいいってくあぁ~……」
ショコラ: 「あ~そういえば、そんなこと言ってたねぇくあぁぁ~……」
嘉祥: 「教えこんだのはお前じゃねーか」
時雨: 「そんなことより兄さま。今日もこの妹めに愛のささやきを」
嘉祥: 「そんなことより、じゃないだろこの[だもうと,1]駄妹がー」
時雨: 「痛い、痛いです兄さま! そういう愛も嫌いじゃないですが!」
反省の色なし。
……まぁ、別に怒ってるわけでもないんだけども。
時雨に色々と見透かされてたみたいで、
情けないやら照れ臭いやら悔しいやらくらいで。
時雨: 「兄さまの愛情表現はたまに激し過ぎですね、ぽっ♪」
時雨: 「では次は兄妹の熱烈な口付けを……ん♪」
嘉祥: 「あほか」
キスをせがむ時雨のおでこを突く。
時雨: 「むー。ちゃんとアメあってのムチなのですよ?」
時雨: 「こんな可愛い妹の誘いを、いつもいつもむげにするなんて」
時雨: 「ショコラ、バニラと恋ネコになってから、少し冷たいのではありませんか?」
嘉祥: 「まるで前はキスしてたみたいな言い方すんな」
腰に手を当てて頬を膨らませる時雨。
ほんとこいつの冗談はわかりづらい。
兄として外に出すのが心配になるレベルだ。
可愛い妹であるのは認めるが故に。
時雨: 「でもショコラもバニラも幸せそうで良かったです」
時雨: 「兄さまのところに来ることで鈴も持てましたし」
時雨: 「それに、ちゃんと心の方も成長しているようですしね?」
寝ぼけながらお互いの髪を梳かしている二匹。
時雨が愛しい我が子を見るように優しく目を細める。
時雨: 「ちょっと前までは、あんな風に身だしなみを気にしたりもしなかったのですが」
時雨: 「兄さまも、現状を悪くは思っていないのでしょう?」
嘉祥: 「……まぁ、それなりにな」
時雨: 「まぁ、素直でないこと。くすくす」
俺の心の内を見透かしたように笑い声をこぼす。
……年の離れた兄の、つまらないプライドだな。
時雨: 「ショコラとバニラを受け入れてもらえないのであれば、時雨が身体を張るところでした」
時雨: 「妹である前に私も女ですから」
時雨: 「兄さまの寵愛を受け入れることなど、それは容易きことです」
嘉祥: 「アホ。妹に手出すか」
嘉祥: 「お前はいつまでもバカなこと言ってんなって」
時雨: 「ひゃう、いつまでも子供扱いして~」
時雨の頭をくしゃくしゃと撫でつけた。
口唇を尖らせて抗議の視線を向けてくる。
時雨: 「時雨は本気ですからね? 兄さまのためでしたら何でもするのですから」
嘉祥: 「はいはい、分かった分かった。ありがとな、うりうり」
時雨: 「もー兄さまー! くしゃくしゃしちゃダメですってばぁー!」
せっせと手櫛で乱れた髪を直す。
うん。相変わらず可愛い妹だ。
時雨: 「でも、兄さまも雰囲気がとても優しくなりました」
時雨: 「やはり家を出て良かったのでしょうね」
時雨: 「……時雨は、少しだけ寂しく思いますが」
少しだけトーンの落ちた声で。
寂しそうに、困ったように微笑む。
嘉祥: 「……時雨には、昔から色々と迷惑かけてたからな」
俺と父親の折り合いが上手く行かなかった時も。
俺が洋菓子を隠れて練習してた時も。
多分、俺が黙って出て行った時だって。
きっと勘付いていながら、知らない振りをしてくれていて
ショコラとバニラのことだって、陰で協力してくれてたんだろうと思う。
……本当に時雨は、俺の妹とは思えないくらいによく出来た妹だ。
嘉祥: 「ショコラとバニラはちゃんと俺が面倒見るから、心配要らない」
嘉祥: 「だから、いつでも遊びに来いよ」
感謝の気持ちを込めて、時雨の頬に手を添える。
時雨: 「……はい。ありがとうございます、兄さま」
時雨もまた、微笑んで俺に頬を預けて応えてくれる。
小さな妹の愛おしさと柔らかさが、
手のひらから暖かく伝わってくる。
ショコラ: 「ご主人さまー! お仕事の準備バッチリ出来ました!」
バニラ: 「戦闘準備完璧。寝癖ひとつなし」
嘉祥: 「おう、了解」
嘉祥: 「悪い時雨。じゃあちょっと店開ける準備してくるな」
時雨: 「いえいえ。朝から押しかけてしまったのは私の方ですから」
時雨: 「今日も一日、頑張って下さいね。兄さま」
嘉祥: 「ああ。お前はゆっくりしてていいからな」
ショコラ: 「ショコラも行ってきます! また後でね、時雨ちゃん!」
バニラ: 「私も労働してくる。時雨、また後で」
時雨: 「はーい、いってらっしゃいませ」
時雨: 「……ん。これで色々と丸く収まったかな」
みんなが下に降りたのを確認してから、
リビングのソファに腰を降ろして一人呟く。
時雨: 「それにしても、ショコラとバニラが兄さまの恋ネコ、かぁ……」
時雨: 「……娘に想い人を取られてしまった気分ね。くすくす」
あの小さかった仔ネコたちが。
自分でそうなるようにしたとは言え、
思わず苦笑いがこぼれてしまう。
時雨: 「……私も、叶わない想いなど諦めて」
時雨: 「そろそろ兄離れをしないといけないのかもね」
叶うはずのない恋心へと言い聞かせるように。
さっきまでそこにいた、愛しい想い人へ告げるように。
もう一度、声に出して呟いてみる。
せめて自分の代わりにと。
娘代わりのネコたちに託した気持ち。
私は妹として、ずっと側にいられればそれでいいんだから。
チクリと痛む胸を深呼吸で和らげて、
目を閉じてソファに身体を預ける。
時雨: 「……よしっ」
時雨: 「じゃあまずは、兄さまのお洗濯物でも片付けてあげることにしましょうか」
ソファから勢い良く立ち上がって
ぱん、ぱんと自分の両頬を叩いて窓の外を見上げた。